結婚がわからない・田房永子さん&小川たまかさん 後編

豚汁とご飯を堂々と出してきた夫がまぶしく見えた理由

豚汁とご飯を堂々と出してきた夫がまぶしく見えた理由

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ジェンダーの問題に関心を持ち、書き手として女性差別や男性優遇社会への違和感などを記事にしてきた。しかしその一方で、結婚生活において自分の中に矛盾や葛藤を感じる瞬間も多々ある──。

前編では、そんな個人的な悩みをテーマに、ライターの小川たまかさん、漫画家の田房永子さんとともに語り合ってきた。夫婦別姓をめぐる葛藤などから見えてきた、制度そのものに埋め込まれた性差別。女性である二人が身体的な感覚に根ざした違和感を抱いていたのに比べ、男性である自分が感じていた葛藤は正直薄っぺらいものではなかったか……。そんな、つらみあふれる発見もあった。

後編ではより細かな、生活のちょっとしたシーンに立ち現れる葛藤をテーマにお二人と語らいを続けていきます。

(左から)田房さん、清田さん、小川さん/イラスト:田房永子

(左から)田房さん、清田さん、小川さん/イラスト:田房永子

普段は「傾聴が大事」とか言ってるくせに……

清田隆之(以下、清田):我々はみんなフリーランスで、家で仕事をすることも多いじゃないですか。俺の場合は基本的にずっと家にいるし、原稿書くのが遅すぎていつもなんらかの締め切りに追われてる状態で、それが家事やコミュニケーションにまつわる葛藤の元になっていまして……。

田房永子(以下、田房):例えばどんなことで?

清田:原稿に取りかかってるときって頭の中がそれで占拠されちゃってて、結婚相手(以後「しおちゃん」と呼びます)から話しかけられても全然内容が頭に入ってこず、返事が適当になっちゃうことが結構あって。

小川たまか(以下、小川):わかる……。私も仕事に集中してるとき、夫から話しかけられても聞こえなくて無視しちゃうことがあって、たまに怒られる。私は夫が仕事してたら話しかけないようにしてるんだけど(笑)。

清田:厄介なのはさ、桃山商事の活動は「恋バナを聞く」がメインだから、自分も原稿で「人の話に耳を傾けましょう」みたいなことをよく書いているのね。傾聴や共感は自分の中で大きなテーマになっているわけだけど、締め切りに追われてるときなんて生返事もいいところだから自己矛盾が半端ない。

田房:在宅だとどうしてもね。私も子どもがガンガン話しかけてくる。

清田:もちろんパートナーにも子どもにも悪気はないだろうけど……これって在宅ワーカーの永遠の悩みかもね。現状の対策としては、集中したいときは近所のドトールに行くんだけど、しおちゃんも自営業で家にいることが多いから、ドトールに行くことが「お前がいると仕事に集中できないから外に行ってくる」みたいなメッセージとして受け取られてたらどうしようとか、そういう別の葛藤もあって。

田房:そういうことってしおちゃんと話したりするの?

清田:このテーマを考えるにあたって聞いてみたんだけど、「邪魔してたらすいませんという気持ちもなくはないけど、あなたは話しかけられると反応しちゃうタイプだから、一人になるためにドトールへ行ってるんだろうなって理解してる。だからさほど気にしてない」とのことだった。要するに俺の自意識過剰ってだけなんだとは思うけど……。

“リトル清田”が厳しすぎるのはなぜ?

清田:それともうひとつ気にしてることがあって、例えばドトールから戻ると、彼女が夜ご飯を用意してくれてるときとかもあるのよ。ちょうどお腹も減ってて、めちゃくちゃありがたくはあるんだけど、なんか妙な罪悪感があって「すいません……」って恐縮してしまう。

小川:気持ちはわからなくもないけど、そこは「ありがとう!」でいいんじゃない?

田房:うんうん。でもさ、何がそんなに恐縮なの?

清田:しおちゃん自身は「自分が食べたいものを作ってるだけなので、お腹が空いてるなら食べればいいし、ご飯のタイミングじゃないなら食べなくてもいいし」という考え方の人なんだけど、心の中の“リトル清田”が「ひと仕事終えて帰宅したら奥さんの手料理ですか〜」「いいご身分ですね〜」「清田さんって普段はフェミっぽい発言してるけど家では昭和なんですね〜」って、厳しいツッコミを入れてくるというか……。

小川:リトル清田、また出てきた(笑)。

清田:俺もご飯を作るには作るんだけど、冷蔵庫にある食材で作る適当な炒め物とか、あとは焼きそばとか鍋とか、そういう簡単なやつしか作れないのよ。そういう不均衡さも罪悪感の一因かも。

田房:いいんだよ、そんなの。シンプルな食べ物ってすごくいいと思うよ。私の夫も以前はカレー作ってくれるとき、なんか「俺のカレー」にしたがってた。レシピ通りのカレーじゃなくて、俺の価値、俺が作った証しみたいなのを注入したいらしく、なんかパイナップル缶の汁とかを入れるんだよ(笑)。

小川:うんうん。簡単な料理の何がいけないのって思う。焼きそばだって鍋だって、肉も野菜も入ってるわけで、なんの問題もなくない?

清田:そっか、じゃああれはあれでいいのかな……。

田房:思うにさ、リトル清田がめちゃめちゃ厳しくなってるんだよ。フェミ意識が高まって、男性が下駄を履かされてるのも自覚してるから、フェアにするためにはその下駄の分だけ掘らなきゃいけないっていう気持ちが背景にあるのかも。

小川:リトル清田が清田さんに求めてる水準って、日本のお母さんに求められているものが反映されているような気もする。おいしくて、多品目で、栄養バランスのとれた料理を作り、なおかつ家族とのコミュニケーションも密に取って……みたいな高すぎる水準が。

清田:なるほど、確かにそうかも……! やばい、リトル清田めっちゃ価値観が昭和だね(笑)。

一汁一菜を実践してる夫がまぶしかった

小川:でも、実は私にも似たようなところがあって。例えば夫から夜の9時ぐらいに「今から帰るわ」とかメールが来たときに、私はまだ仕事をしてて、「仕事が終わんないから夕飯とか作れないわ、ごめんね」みたいな返信をしてしまうことがあって。別にご飯はどっちが作るとか決めてるわけじゃないし、夫も「そんなの気にするな」みたいに言うんだけど、そこで「ごめんね」と送っちゃう私の気持ちはなんなんだろうって。

清田:なるほど、自然になんとなく謝っちゃう。

小川:そうそう。あと、ご飯を作ったときでも「今日はおかずが少なくてごめん」とかもちょっと思ってしまう。

清田:小川さんの中にも“リトル小川”がいるんだね。

小川:普段はすごいフェミっぽい記事を書いてるくせに、そして他の女性が同じことを思ってたら「そんなの申し訳ないと思うことないよ」とかって言ってるのに、自分ときたらね(笑)。

田房:それすっごいわかる!

小川:でも清田さんの話を聞いてたら、男性の中にも昭和的価値観の呪いがあって、しかもそれが家事をちゃんとできてない自分自身を縛っているというのはちょっとおもしろい発見だなと思った。

田房:昭和のお母さんレベルのことを完璧にやれないと、男が履かせてもらっている下駄を脱いだことにならない、みたいなね。

清田:今までそんな風に考えたことはなかったけど……それめっちゃあるかも。

田房:一汁一菜ってあるじゃん、土井善晴先生の。味噌汁の中におかずは全部入ってるから、食事は味噌汁とごはんだけでいいんだよ、っていうやつ。私、あの考えにすごい癒やされるんだけど、家族にはなぜか一汁一菜を出せないのね。自分で食べる分には全然いいけど、家族には絶対無理っていうのがあって、まだ一度もやったことがない。

でも、夫が家族全員の食事の準備をしたとき、豚汁とご飯だけの日があったのね。もうその頃は、夫が家族の夕飯を作ることは日常になってたから、「俺のカレー」時代は終焉してて、一汁一菜まで進化してんの。別に土井善晴信者じゃないんだよ。「えっ、一汁一菜やってる!」って、この人すごいな!って思った。「よくできるな……(皮肉)」とかじゃなくて。豚汁ってよく見たら全部入ってるじゃん。

小川:肉も入ってるし、野菜もたっぷりだし。

田房:それプラスご飯でしょ。もういいじゃんこれで、完成されてるじゃんと思って。で、それを出すにも、「ごめんね今日は」とか卑屈な感じがまったくないんだよ、夫。堂々と背筋をのばして食べてて、子どもたちも別になんにも言わず普通に食べてて、それがなんかまぶしかった。

清田:まぶしかった(笑)。

田房:確かにちょっとは「男ってズルいな」とも思ったけど、私たちもきっと、そうやって堂々としてていいんだよね。だっておかずの品数が少ないから謝るって意味わかんないじゃん、ご飯を作ってるのにさ。よく考えるとつくづく変な文化なんだよね。

自分の行動にもあまり疑問を持ちすぎない

清田:それぞれにはそれぞれのリトルがいて、しかもそれらは昭和のお母さん幻想みたいなものに縛られていた。そうやって考えてみると、俺が抱えていた葛藤や罪悪感って、つまり自分の中にある規範意識を相手に投影した結果ってことなんだね。

田房:そうだよね。決してしおちゃんは「チッ、清田また塩焼きそばかよ!」なんて思っていないわけで。

清田:以前はしおちゃんが機嫌悪そうなとき、つい「あれ、俺なんかしたかな?」「やっぱワンパターンな料理に不満があるとか?」「掃除機の音がしたのにトイレから出なかったことがマズかったか……」みたいにいろいろ連想して不安になったりしてたんだけど、実はそれがPMS(月経前症候群)によるものだということが徐々にわかってきたのね。それ以来、あまり自意識を回転させすぎないようになった。

小川:私の夫はベースが不機嫌っぽい人なんだけど、それは寝起きが悪いとかそういう感じのもので、不思議と気にならない。「俺の不機嫌を察しろ」「ケアしろ」みたいな空気を出してくる人だとめっちゃ怖いけど、そうではなくて少年アシベのスガオ君みたいな感じなので「今日も不機嫌な顔だね! でもそういうところも好き!」くらいにしか思わない。なんか惚気みたいですみません。

清田:いや、めっちゃいい話よ(笑)。「それはあなたの問題」「これは私の問題」って切り離して考えていい問題なんだろうな。

田房:前にさ、なくした物を探してるときに6歳の娘がわんわんわんわん絡んできて、「うるさい!」って大きな声出しちゃったのね。完全に私が悪くて、いろいろ焦っててキャパオーバーしちゃってたんだけど、しばらくして娘が「さっきなんであんなに怒っていたんですか?」みたいなことを言ってきたの。

泣くでも謝るでもなく冷静に聞いてきてくれたから、ホント、あのときはママがおかしかったです、あなたはまったく悪くないですよっていうことを説明できたのね。それがすごくありがたかった……。

小川:ちゃんとしたコミュニケーションになっているのがすごい。

田房:まだそのとき6歳で、私に対して「この人はちゃんと話を聞いてくれる」って信頼関係があって、向こうもそうやって聞いてきたんだと思うけど、そういうのって普段の態度とかにもよるから、いつまで保てるのかわかんないじゃん。

清田:そうだよね。

田房:結構さ、夫婦も親子もそうだけど、ある程度は相手に委ねていくしかないよね。「相手はこう思ってるかも」って先回りしてもなんの意味もなかったりすることも多いじゃん。

関係にヒビが入ってしまって修復したかったらがんばるべきだけど、基本的には相手を全力で信頼していくしかないっていうか。

私も前は不安や心配に駆られてすぐキレたりしていたけど、セラピーを受けたり本を書いたりする中で段々と落ち着いてきて、相手にも相手の人生あるから、どう思っていても自分が介入できない部分もあるという距離感がなんとなくわかるようになった。自分の行動にもあまり疑問を持ちすぎないっていうのも結婚生活では大事な気がするんだよね。

清田:確かにそうだね。自分の問題として引き受けるべきことと、相手の問題として切り離して委ねることの境界線について、今後も引き続き考えていきたいと思いました。二人ともどうもありがとう!

【イベントのお知らせ】
2019年8月16日(金)の夜にNaked Loft(東京都新宿区)で清田さん、田房さん、小川さんのトークイベントが開催されます。題して「クソリプ研究所・真夏のお焚き上げ大会〜なぜフェミ発言にはヤバいリプが飛んでくるのか〜」。SNSに飛び交うクソリプの事例を紹介しながら、クソリプを飛ばす人々のマインドやモチベーションなどについて研究。

クソリプの例

クソリプの例

詳細はコチラ

(清田隆之/桃山商事)

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結婚がわからない

普段は恋愛相談や失恋話ばかり聞いている桃山商事の清田さんに、自分自身の結婚や、どんな毎日を送っているかをつづっていただきます。

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