「養う/養われる」じゃない家族のカタチ  落合博さんの場合 第1回

「僕には“変”って褒め言葉なんです」養う/養われるじゃない家族のカタチ

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「僕には“変”って褒め言葉なんです」養う/養われるじゃない家族のカタチ

夫がバリバリ稼いで妻は「家事育児に支障がない程度に」なんて働き方は、いつまで続くのでしょうか? チームとなって“家族運営”をする中で、それぞれが注力したい方向に向いてもいいはず——。

銀座線田原町駅から徒歩2分の場所に佇む新刊書店「Readin’ Writin’ BOOKSTORE(リーディン ライティン ブックストア)」の店主、落合博さんは、新聞社に務めていた55歳のときに長男が誕生。将来を考えて、58歳で退職しました。そして、約1カ月後、主収入を稼ぐ“一家の大黒柱”の役割を看護師のパートナーに替わってもらい、書店を開業します。

「世間の同調圧力に翻弄されない、人とは違う生き方に魅力を感じる」と話す落合さん。夢を追うのではなく、現実を見据えてしなやかに生きる方法を聞きました。

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定年間近の58歳で独立 妻は「反対」

——以前は毎日新聞で論説委員を務めていた落合さん。60歳で定年を迎えたとしても、再雇用で65歳まで働けたはず。なぜ、退職に踏み切ったのでしょうか?

落合博さん(以下、落合):もし65歳まで働き続けて退職するとき息子はまだ9歳。とてもじゃないけど、即隠居生活というわけにはいきません。働き続けることは僕にとって自然なことでした。

では、65歳まで新聞社で働き続ける選択をするとどうなるか。60歳で再雇用制度を利用したとしても、給与はこれまでより下がるだろうし、経験のない他部署への異動も避けられなかったと思います。つまり、60歳で同じ新聞社で再スタートしても、65歳で再々スタートしないといけない。

65歳からどんな仕事ができるだろうかと考えても、30年近く記者として働いてきた僕には何の資格もない。小遣い稼ぎにアルバイトするくらいしかできないのかなと思ったんです。

そこで、たとえ収入が減っても、長く続けられる新しい仕事を見つけようと思ったのが書店を開業するきっかけになりました。幸いなことに、体は元気。周囲の目を気にせず、自分なりにプライドを持って働きたいという意欲もあったので。

——パートナーには反対されませんでしたか? 夫の転職や独立によって収入が減る場合、妻が転職を阻止する“嫁ブロック”があると世間では言われていますが……。

落合:妻は反対でしたよ(笑)。でも、既成事実を積み重ねて説得したら応援してくれるようになったんです。

——既成事実?

落合:時折、思い出したように「(書店開業に向けて)今はこんなことをしているよ」と話すんです。妻を正面から説得するようなことはしませんでした。相手が嫌がっているときに理詰めで話すと逆効果になってしまうから。

反対しているので当然反応はよくないのですけど。でも、さまざまな書店の店主に話を聞いたり、資料を集めたりしている僕の姿を見ているうちに、本気で取り組んでいることが伝わったんでしょうね。「私が何を言ってもだめだ。もう仕方ない」と思ったらしく、賛成してくれるようになりました。

——持久戦ですね。でも、さまざまな職業があるなかで、なぜ「本屋の店主」を選んだのですか? 長年の夢、とかでしょうか?

落合:うーん……。本のある空間は好きでしたが、実は以前から「本屋になりたい」と思っていたわけではないんです。家族と過ごす時間を大切にしながら、年齢を重ねても稼いでいける仕事をしようと思って周囲の人に話を聞きながら考えた結果が本屋だったんです。子どもがいなかったらどうなっていたのか、自分でもわかりません。

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マイノリティでいるほうが居心地がいい

——“嫁ブロック”のほかに、前職の同僚や友人からのブロックもありましたか?

落合:いえ。経営については他の独立系書店の経営者には話を聞いたりしましたが、他の人には話していないのでブロックはありませんでしたね。そもそも人と群れることが好きじゃないので。

社会人になって2年目の頃、小学生男児誘拐殺人事件があり、報道協定違反ということで記者クラブの出入りを禁じられたことがありました。それまでは記者クラブの仲間と新聞社の垣根を越えて交流があったのですが、出入り禁止になった途端に周囲の態度が急変したんです。昼食も取材も突然一人になりました。

人と群れなくなったのは、その頃です。最初は「何だよ」とも思いましたが、自分で考えて、行動する。誰にも同調を強いられないのは気楽だと思うようになり、一人でいることを恐れなくなりました。マイノリティでいるほうが僕にとっては居心地がいいんです。

——ということは、書店に置く本の選書も人に相談することはほとんどない?

落合:そうですね。本棚はある意味、僕の頭の中なので。自分が気になる本や、いつか読んでみたい本を中心に選んでいます。

——でも一つのジャンルに偏ることなく、さまざまな分野の本がそろっていますよね。

落合:それが人間のおもしろいところなんです。お客様のなかにはまとめ買いをする人もいますが、同じジャンルの本ばかり購入する人はほとんどいない。今日レシピ集と小説とマンガを一冊ずつ買った人が、明日は違うジャンルの本を手に取る。脳内に無数の引き出しがあって、開いたり閉まったりしていて、それが購入する本に表れるんですよ。

本の種類も並べ方も他の書店とは違うので、もしかしたら「変な本屋だな」と思う人もいるかもしれません。でも「変」っていうのは僕にとって褒め言葉なんです。人と違うことをしたほうが面白いから。もし、「おまえ、変わってるな」と言われたら、「そう? ありがとう」って返したいですね。

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(東京都台東区寿)
最寄り駅:東京メトロ銀座線『田原町』駅下車 徒歩約2分
営業時間:12時〜18時  月曜定休

第2回は12月14日(金)公開予定!
(取材・文:華井由利奈、撮影:大澤妹、編集:Duniakita編集部 安次富陽子)

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