『美しい国』対談・前編

“どこにでもいそうな青年”を演じて浮かび上がったリアル【太賀×石川慶監督】

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“どこにでもいそうな青年”を演じて浮かび上がったリアル【太賀×石川慶監督】

「なんとなく、気づいたらこうなっていた」。

仕事にしろ私生活にしろ、よく聞くセリフです。それがたった1人の生き方なら「よくある話」で終わるけれど、気付けば、世の中全体が危機に向かって後戻りできない状況になっていたとしたら……?

5人の若手映像作家が各々の視点で切り取った「10年後の日本」を舞台に、五つの物語がつづられるオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』が11月3日(土)から公開されます。その中の1本、『美しい国』は「徴兵制が施行された日本」がテーマ。一見、今日と変わらない日本の日常に、自然に戦争が組み込まれている描写にひやりとさせられる作品です。

メガホンをとったのは、短編作品やCMなどを手がけ、昨年『愚行録』で長編デビューを果たした石川慶監督。主演は、どんな役にもリアリティをもたらす高い演技力で、映画やドラマからオファーが絶えない太賀さん。

Duniakitaでは前後編にわたって2人のインタビューをお届けします。

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石川慶監督(左)と太賀さん

石川慶監督(左)と太賀さん

太賀「商業映画ではなかなか描けない」作品に挑戦

——『十年 Ten Years Japan』は、香港の若手監督5人が「10年後の香港」という設定で5本の短編を撮り、現地で社会現象となる大ヒットを記録したオムニバス映画『十年』(2015年)をもとにした作品。日本、タイ、台湾の3地域で、これと同じコンセプトの映画を作ろうという国際共同プロジェクトの一環として始動したものです。石川監督は、どのような経緯で参加が決まったのですか?

石川:もともと香港の『十年』も見ていて、面白い企画だなと思っていたところに、日本版のプロットを募集してると聞きました。

さらに是枝裕和監督がエグゼクティブプロデューサーをされると聞いて、コンペ形式でどうなるかわかりませんでしたが、なかなかないチャンスだと思ったので、脚本を書いたのがきっかけですね。

『十年 Ten Years Japan』の『美しい国』より(C)2018 “Ten Years Japan” Film Partners

『十年 Ten Years Japan』の『美しい国』より(C)2018 “Ten Years Japan” Film Partners

——太賀さん演じる主人公・渡辺は、徴兵制の公示キャンペーンを担当する広告代理店の社員です。防衛省の意向で、ポスターデザインを一新するために、ベテランのデザイナーに「クビ」を言い渡すという重責を押しつけられる役どころです。太賀さんを主演に選んだ理由は?

石川:太賀くんは、ただただ僕が好きだったから(笑)。とにかく一緒に仕事をしたいなと思っていたので、イメージキャストを書く欄に、じゃあ「太賀くんで」と。

太賀:僕としてもすごく嬉しいお話で、オファーをいただいた時点でかなり前のめりだったんですけれど、決め手は脚本です。こういう社会を描いた作品に携わっていきたいなと思っていたので、ぜひ参加したいと思いました。

(エンタメ色の強い)いわゆる商業映画というものでは、なかなか描けないテーマできないですから。それに、『十年』の企画自体にも魅力を感じましたね。

石川:アジアの一大プロジェクトで、その一部になれるというのは魅力的ですよね。

太賀:映画が持つ魅力はそこにもあると思うんです。いろいろな国があって、いろいろな映画があって、それぞれに文化があって、描くべきことがある。

でも、見ている受け手としては、作り手のこだわり以上に、もっと普遍的な何かにつなげられる希望がある気がします。

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大きい流れに従ってしまうときに抱く”違和感”

——『美しい国』にはきな臭い未来が描かれていますが、徴兵制をテーマにしたのは監督の意思ですか?

石川:そうですね、お題はなかったので。もともとは、表現の自由とか、もう少し身近なことを書こうと思っていたんです。でも、これまでテレビの番組制作や広告の仕事をしていたときに、現場で感じた違和感みたいなものを、自分なりに考えてみたいと思うようになりました。

それは規制なのか、忖度(そんたく)なのか、「誰が言ってるんだろう?」みたいな、よくわからないけれど大きい流れに従ってしまうときに抱く違和感。

現場では「そういう仕事だから」とあまり考えずにやるんですけど、「それはどこに行きつくのか?」と考えたときに、 10年後、意外と徴兵制施行ぐらいはあり得るのかなと思ったんです。

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——太賀さん演じる会社員の渡辺は、ミサイル発射を知らせるサイレンが鳴り響く戦時下という設定なのに、全然危機感がないですよね。

石川:撮影現場で太賀くんに話したのは、今どこにでもいそうな青年にしてほしいということ。まわりで有事が起きているかもしれないけど、普通に出社して、普通に一生懸命仕事して、普通に帰っていく。

太賀:僕も、今と地続きの物語であるべきだと思っていましたし、そういうキャラクターであるべきだと考えて演じていました。渡辺という、当たり前に働いてる人が何かに気付く。そこをリアリティを持って演じられたらいいなと思っていました。

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「非日常」が「日常」になってしまう怖さ

——渡辺にとっては、サイレンが鳴り響く光景も、いつの間にか普通になっている。不謹慎ですが、実際に今の日本でも地震や大雨といった災害が次第に「日常」になりつつある気がします。

石川:これを書いたのは去年の6、7月頃なんですけど、ちょうど北朝鮮からのミサイルが飛び回ってた時期で、けっこう頻繁にサイレンが鳴ったじゃないですか。たぶん、これが続いたら慣れてしまうんだろうなと思ったんですね。

太賀:人って順応していってしまう生き物ですよね。右向け右みたいなところもありますし。

石川:特に日本人って順応しやすい。

——長いものに巻かれるというか、たとえば会社員でも、会社が何かこうだと言えば、最初は疑問に思いつつも、従ってしまうようなところがありますね。

石川:東日本大震災のときも、あれだけのことがあったのに、翌日みんな出社しようとしてたじゃないですか。「どうなるかわからないけど、とりあえず出社するんだ」みたいな。

それが日本人の力強さでもあり、同時に、個人の考えのなさ、みたいなところでもある気がするんです。

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太賀さんが出演作を決める基準

石川:ところで、太賀くんは出演作をどういうふうに選んでるの? いい作品にばかり出てるから……。

太賀:自分の中のアンテナとセンサーで(笑)。嗅覚ですね。事務所とも相談しつつですけど、「いい匂いがするなぁ」で決めてますね。

石川:すごいですよね。(太賀さんの出演作に)変な作品はない気がする。

太賀:フィルモグラフィーとして役者の中で積み重なっていくものだから、作品選びの重要性は感じていて。自分自身の可能性を広げるためにも、誠実に向き合いながら選んでいるつもりではいます。

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※後編は11月3日(土)公開です。

(聞き手:新田理恵、写真:宇高尚弘/HEADS)

■映画情報


公開:11月3日(土)よりテアトル新宿、シネ・リーブル梅田ほか全国順次
出演:杉咲花、國村隼、太賀、川口覚、池脇千鶴
配給:フリーストーン
(C)2018 “Ten Years Japan” Film Partners

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