まさか私も依存症に? 第2回

沖縄のディープな飲み屋街で無一文に。『万引き依存症』著者が語る弱さとの向き合い方

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沖縄のディープな飲み屋街で無一文に。『万引き依存症』著者が語る弱さとの向き合い方

『万引き依存症』(イースト・プレス)の著者であり精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんへのインタビュー。

第1回は、人に頼ることの大切さについてお聞きしました。第2回となる今回は、30代女性に視点を向けて、依存症になりやすい人の特徴を教えてもらいます。

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沖縄のディープな街で無一文に

——前回、「人に頼る」ことは大事なスキルだというお話がありました。ご自身も他人に頼るのが苦手とのことでしたが、その後、スキルは上がりましたか?

斉藤章佳さん(以下、斉藤):前よりはできるようになりました。ちょっと手伝ってほしいとか、小さな頼みごとを繰り返すことで、ある程度「型」ができてきたかなと思います。

——雑談程度に「こんなことに困っていて……」と伝えるだけでも、違いますよね。

斉藤:そうです。でも、私もですけど、男性ってそれが下手な人が多いですよね……。私の場合、弱さをオープンにすることで他人とつながるという体験がなかったので、特に。

——全然なかったんですか?

斉藤:沖縄でホームレスをしていたときに生まれてはじめて、他人に弱さをオープンにするとこんなにラクになるのか、と気づきました。それが結構大きな体験になりましたね。

——え!? 沖縄でホームレス!?

斉藤:ええ、大学4回生のときに(笑)。ちょっと話が長くなりますが、私はもともとサッカーでプロを目指していました。高校では県の優秀選手に選ばれたり、ブラジルに短期留学したり、地元の友人たちからは「あいつは絶対プロに行く」と言われていたんです。

ところが両ひざに大きなケガをしてしまい、手術したけれど、結局プロになる夢は途絶えました。そのため、今思うと大学時代はずっと腐っていました。

大学最後の春休みのことです。就職も決まらずやりたいことも見つからなかった私は、現実逃避のために沖縄旅行に行きました。着いた1日目の夜に地元のおじさんたちに「おごってやる」と誘われて、桜坂という飲み屋街ですごく飲まされて。飲み干すまで下に置けない三角形のグラスを出されて、あれで泡盛を夜通し飲んだんですよ。若干自暴自棄なうえ現実逃避で旅行にきてるから、酒が進みます。

——桜坂……沖縄でもディープな場所ですよ。やばい予感しかしないです(苦笑)。

斉藤:予想通り、いつの間にか道路で寝ていて、朝起きたら衣類以外荷物全部盗られていました。でも、就活をさぼってきているから親には言えないし、どうしたらいいかわからず途方にくれました。今考えると警察に行くとか、いろいろ手段はあったと思うのですが……。将来どうしたらいいのかわからない状態で沖縄に逃げてきて泡盛を飲み過ぎて無一文になったということもあり、誰にも助けを求められないまま、国際通りの公園でずっとベンチに座ってたんですよ。なんと3日間も。

「おまえそこで何してるんだ?」

斉藤:そんな私に声をかけてきてくれたのがホームレスのおじさんだったんです。「おまえずっとそこに座ってるけど何してるんだ」と。ちょっと警戒しましたが、私は明るく振舞って「観光にきました!」と答えました。すると、「おまえ3日前からずっとそこに座っているだろ」と言われて。

だけどその時、何を思ったのか私は、彼にこれまでのことを全部話したのです。彼はただただ私の話を聞いてくれて、話終えたときにすごくスッキリしたことを今でも覚えています。あれは私の最初のカウンセリング体験だったのだと思います。今だと、あのおじさんがカウンセリングの神様カール・ロジャースに思えます(笑)。

この仕事をはじめて一年目に、先輩から「他人に助けを求められるようになれ」と言われてそれができずに悩んでいたときに、「あっ、助けを求めるって、沖縄のあのときみたいなことなんだ」と気づいた瞬間は、いろいろなものがつながった気がしました。

——話を聞いてもらってラクになった後はどうしたんですか?

斉藤:結局その後一週間ほどシケモク(タバコの吸い殻)拾いをして、そのおじさんたちと生活しました。彼と分かれたあとは、せっかく沖縄に来たのだから島一周旅をしようと思って、「今夜泊めてください」といろんなお宅に泊めてもらいながらそこの家業を手伝ったりして、お金を貯めて戻ってきました。この体験を通して私の価値観は大きく変わりました。仕事とは生きるためにするのもだと。すみません、話が逸れましたね(笑)

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——いえ、貴重なお話をありがとうございます。

斉藤:ちなみに、そのときのおじさんや、ホームレス仲間の人たちは、みんな依存症の人たちだったと思います。アルコール依存症とか薬物依存の人もいたと思います。ギャンブルで生活が破綻してホームレスしている人もいましたし、今考えると、依存症の人たちとの最初の出会いはあのときでしたね。

つながりを取り戻す

——万引き依存症の患者さんについて話を戻すと、30代の女性って多いですか?

斉藤:そうですね。特徴としてはワンオペ育児のストレスから万引きを始めてしまったというケースが多く、皆さんまじめに子育てをしている人ばかりです。働きながら子どもの送り迎えをして、宿題を見て明日の準備をして、行事があればそれも参加して、子どもが熱を出せば仕事を早退せざるをえないから職場での立場も厳しくなっていって……。

それで仕事の帰りにはスーパーに寄って献立を考えてご飯をつくる。家とスーパーと職場、この世界がずっと息継ぎなしで続いているような感じです。

これは痴漢する男性の状況とも似ていると思います。痴漢する男性も、職場では長時間労働をいとわないような従順なサラリーマンで、家庭では家事育児もやっていて、家と電車と職場をずっと息継ぎなしで生きているような感じで……。

家と職場の往復を繰り返す狭い世界のなかで、唯一匿名の存在になれるのがスーパーや電車なのです。そこでスリルやリスクのある環境で、つかの間の優越感や達成感を味わってしまうと、耽溺しやすいです。人間は特別なものにはハマりにくく、日常の中だからこそハマっていきます。習慣とはそういうものです。

——では、日常生活において優越感や達成感を得られていれば、依存症にはなりにくい?

斉藤:必ずしもそうとは限りません。なぜ万引きや痴漢に耽溺していくかというと、ほかの世界とのつながりや人間関係とのつながりを犠牲にせざるをえないライフスタイルになっているために、非常に世界が狭くなっています。やはり孤立化していますね。

——以前、他媒体の斉藤さんのインタビューで、依存症にならないためには依存先を増やしたほうがいいと書いてあるのを読みました。

斉藤:そうですね。依存症になると、どんどん孤独になっていきます。たとえばアルコール依存症の場合、本人は何をしたか覚えてないけど、お酒を飲んだ次の日はみんなが冷たかったりします。そうやって徐々に人が離れていくと、その孤独感がさらに引き金となって、次の行動につながっていくという悪循環が始まり、結局、最後はアルコールと自分だけの関係になってしまう。

アルコールだけでなく、万引きや痴漢も必ず単独でやることを考えると同様につながりを断っていってしまいます。逆に、依存症から回復していく過程とは、つながりを取り戻していく作業でもあるのです。

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(取材・文:須田奈津妃、撮影:青木勇太、編集:Duniakita編集部 安次富陽子)

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