まさか私も依存症に? 第1回

「あなたの成功体験より弱い話が聞きたい」SOSを出すのが苦手な貴女へ

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「あなたの成功体験より弱い話が聞きたい」SOSを出すのが苦手な貴女へ

アルコール、ギャンブル、万引きetc.依存症って自分には関係ないと思っていませんか?

貧困層や意思の弱い人がなるものでしょ、と思ったら大間違い。

なんと、意思が強くて、まじめで責任感が強い人のほうが依存症になりやすいんだそうです。他人に迷惑をかけてはいけない、人に頼ってはいけない、と思い込んでいる人ほど要注意。

『万引き依存症』(イースト・プレス)の著者であり、精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんに、依存症について3回にわたってお話をうかがいます。

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意思が強い人ほど要注意

——「万引き依存症」と聞いても、私はならないぞと思っている人も多いと思います。経済的に困っているわけでもないですし……。

斉藤章佳さん(以下、斉藤):実は、万引き依存症になる人の所得層は高い傾向にあるんですよ。また、当クリニックの患者さんの7割以上は女性です。そこには、女性が社会や家庭内で担っている性別役割分業からのストレスが問題行動の引き金になっているという背景があります。

——となると、私たちにとっても他山の石ではない……? そもそも、依存ってどういうメカニズムなんでしょうか。というのも、仕事やアルコール依存症一歩手前という人は結構多いんじゃないかという気がしていて。

斉藤:ひと口に依存症といってもさまざまな種類があります。大きく分けると(1)物質に依存する(物質依存)、(2)行為やプロセスに依存する(行為・プロセス依存)、(3)関係性に依存する(関係依存)、の3つ。

(1)はアルコールや薬物、処方薬、ニコチンなどですね。依存性物質を繰り返し身体にとりいれることで依存が形成され、やがてそこにのめり込んでいくというのが物質依存です。

(2)の行為・プロセス依存の代表的な例は、ギャンブルや万引き、痴漢や盗撮、あとさっき言われていた仕事もそうですね。ゲーム症というのも新たに加わりました。

(3)は、恋愛依存もそうですし、不特定の多数と性関係を持つのがやめられないセックス依存症などがこれに当たります。

共通しているのは、なんらかの社会的損失、身体的損失、経済的損失があるにもかかわらずそれがやめられない状態にあるということ。これが依存症の簡単な定義です。

——でも、意思が強ければ、依存一歩手前で止められますよね……?

斉藤:むしろ、意思が強くて、まじめで責任感が強い人のほうが依存症になりやすいですよ。

——えっ、どういうことですか。

斉藤:実は他人に依存するのが下手な人たちが依存症になりやすいんです。つまり、困っているときに周囲にSOSを出せない性格の人ですね。あとで詳しく話しますが、その前に、依存症のメカニズムについて少し補足をします。依存症の人が自分の行為をコントロールできなくなるのは、何度も何度も反復している間に条件反射の回路が脳内に出来上がるからなんです。たとえば、梅干しを見ると唾液が出る人が多いと思いますけど、「梅干しを見ても唾液を絶対に出さない!」って自分でコントロールできますか?

——でき……ません。

斉藤:つまりはそういうことなんです。万引きを例にあげると、最初のうちは盗る/盗らないをコントロールできたりもするのですが、例えば過度なストレス状況下などでこれを繰り返すことで、ストレスに対処していたとします。このような学習を繰り返すと、特定の状況や条件下で自分の意思にかかわらず行動化したい欲求が出はじめ、その衝動が制御できず、手が出てしまうようになります。しかも、繰り返す間に一定の刺激では満足できなくなって、さらにエスカレートしていきます。ちなみにこれは「ドーパミンの耐性」というものです。

そうなると、回数が増えたり、リスクが高い状況にもかかわらずやってしまったりするようになる。よくある例としては、執行猶予期間中で、再犯したら懲役刑だとわかっているのにも関わらず万引きしてしまうとか……。

——著作『万引き依存症』のなかにも、ショッキングな例が載っていましたね。娘さんの結婚式に行く途中で万引きして捕まったお母さんのケースは衝撃的でした。

斉藤:絶対にやってはいけない状況下でも行動化してしまう、それが依存症の怖さなんです。

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「人に頼る」ことは大事なスキル

——明らかにバレるような状況で万引きする人もいますよね。見つかってほしいというか、ある種のSOSみたいなものなのでしょうか。

斉藤:そうですね。他人に依存するのが下手な人たち――意思が強く、まじめで責任感が強い人たちが依存症になりやすいと先ほど言いましたが、そういう人たちのSOSは、行為のエスカレーションとして、周りにわかるようなかたちで表出します。このような歪んだ表現方法をとる、つまり、依存症の症状の本質=コントロール障害ということ自体が周囲へのSOSです。これをパラドキシカル(逆説的)メッセージといいます。

——私たちは、他人に迷惑をかけてはいけない、人に頼ってはいけないと思い込みがちですが、それが依存症の根本にあるんですね。

斉藤:実は私も他人の評価を気にするあまり人に助けを求めるのがすごく下手なんです(苦笑)。依存症の臨床を始めて一年目のときに、「そのまま仕事をしていたら、あなたは絶対に燃え尽きる。一年目の課題として、1日に3回、他人に助けを求めなさい」と先輩に言われたのですが、いざやってみたらなかなかできなくて。

——どのあたりが難しかったのですか?

斉藤:そもそも、誰にどういうふうに相談すればいいのか、どういうふうにSOSを出せばいいのかがわからない。人に助けを求めることって、一種のスキルだと思うんです。訓練を積めばできるようになりますが、誰もが最初からできることではありません。

それに、当時の私は「男らしさ」にこだわって、他人に助けを求めるのはカッコ悪い、人に助けられるなんて弱い人間だと思っていました。長男なので「長男だから~であるべき」という呪文をずっと唱えられてきたし、ずっと体育会系の環境にいたので、基本は気合と根性論で生きてきました。そういう「男らしさ」の刷り込みがあったため、他人に頼るというスキルがまったくなかった。でも、依存症って気合と根性では回復できないんですよね。

——なるほど、「男らしさ」の刷り込みですか。そんななか、どうやって「1日3回他人に助けを求めよ」というミッションをクリアしたのでしょうか。

斉藤:患者さんたちとの治療セッションのなかで、スタッフも自分の話をするのですが、そのときにあるアルコール依存症の回復者の方に、「斉藤さん、あなたは本当の話ができてないね」って言われたんです。正直な話ができてないし、話をしているとき苦しそうだと。それは図星でした。その患者さんは続けて「あなたの弱い話が聞きたい。それが私たちにとっては力になる」と言いました。

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武勇伝や成功体験を語るのがカッコいいと思っていた

斉藤:それまでの私は武勇伝とか何か成功体験を語るのがカッコいいと思っていました。けれど、依存症の世界では弱さを認めることがその人にとって強さになるという、すごく逆説的なことが回復の中でよく起こるんです。そして、回復していく人たちはみんな「謙虚」なんです。他人に助けを求められない自分には「謙虚」さが足りなかった――そのことに気づいてからは、何か困ったことがあったらすぐ相談しようと思えるようになりました。

——「自分でなんでもやらなくては」という思い込みは、「自分でなんでもできる」という思い込みと表裏一体で、実は傲慢なのかもしれませんね。

斉藤:そうですね。たとえば、依存症の回復支援って、自分でなんでもやろうとするほどうまくいかないんです。スタッフ側が「患者さんを回復させる、私が助けるんだ」と考えること自体が非常に傲慢なことですよね。もともと人には回復する力が備わっているので、そこを引き出すサポートをしつつ併走するのがこの仕事なんですけど、この仕事を選ぶ人というのは他人の役に立ちたいとか、人によく見られたい、自分のやり方がよかったから患者さんが回復したと思いたい人がすごく多いと思います。

その気持ちが悪いとはいいませんが依存症の治療では逆効果に働きます。私の場合、まったくうまくいかず、患者さんから批判や攻撃、巻き込まれまくるなどの洗礼を受けたので、それはとてもいい経験でした。

——見返りがほしい、という気持ちをいかに手放すか。

斉藤:やれば必ず結果が出る仕事ではないですし、それどころか我々の知らないところで再発することもしばしばです。あのまま周囲に助けが求められず、「これだけ私がやったのに、この人は立ち直ってくれない」という悪循環のサイクルにはまっていたら、燃え尽きてしまって仕事が続けられなかったでしょう。そこから脱却できたのは、「我々は依存症の人に対して無力である」ということを自分の中で認められたからです。それを最初のステップにして、以後、少しずつ他人に助けを求められるようになりました。ただ、今でも助けを求めるのは下手なんですが(苦笑)。

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(取材・文:須田奈津妃、撮影:青木勇太、編集:Duniakita編集部 安次富陽子)

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