防災ガール・田中美咲/防災デザイナー・三島大世 対談(前編)

防災は「めんどくさい」と思ってたけど・・・【防災ガール&デザイナー対談】 

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防災は「めんどくさい」と思ってたけど・・・【防災ガール&デザイナー対談】 

西日本を襲った豪雨や、毎週のようにやってくる台風、北海道胆振東部地震など、今年は例年以上に自然災害が続いています。いつ起こるか予測できない事態に対して、私たちは何をしておくべきなのか? 「防災ガール」の創立者で代表理事の田中美咲(たなか・みさき)さんと、防災士の資格を持つ防災デザイナー・三島大世(みしま・たいせい)さんに、これからの「防災」というテーマで前後編の対談をしていただきました。

前編は、20〜30代の若い世代にとっての新しい「防災」の考え方がテーマ。「防災=防災グッズを揃えること」と思っていませんか?

<後編>普段から使えるカッコいい「防災グッズ」が欲しい

前編1

「防災はめんどくさい」と思っていた

三島大世さん(以下、三島):田中さんは、いつ頃から防災を意識するようになったのですか?

田中美咲さん(以下、田中):東日本大震災です。それまでは面倒くさいとさえ思っていました。学校の避難訓練もできれば参加したくなかったくらいです(笑)。いつ起こるかわからないものに対して、自分の人生をどれだけベットしなくてはいけないのかなと。

三島:率直なお話、ありがとうございます(笑)。僕も東日本大震災で防災を強く意識するようになりました。津波の映像は衝撃的でしたよね。

田中:はい。海外の災害状況をテレビで目にすることはありましたが、国内で、日本人が、あれだけ大きな被害を受けている映像を見たのは東日本大震災がはじめてでした。あれを見てしまったら何もしないという選択肢はありませんでしたね。

大学を卒業して、社会人になるタイミングだったこともあり、時間的にも体力的にも余裕があったので、現地に行きボランティア活動をしたことが、今につながる大きな転機になりました。

三島:僕は震災の直後にイギリスに留学してしまったので当時は何もできなかったけれど、何かしたいとずっと思っていました。

田中:それが防災デザイナーのお仕事につながるんですね。私は防災とはまったく関係ないIT関連の会社に就職し、しばらくは仕事とボランティア活動を並行していましたが、1年半後に会社を辞めて本格的に福島県の復興支援に携わるようになりました。

住み込みで働いていたんですけど、災害後というのはありとあらゆる課題が一気に浮き彫りになります。次第に自分が持っているスキルや強みを使って課題解決できないかと考えるようになり、新たな防災の価値観を提案していきたいという視点に至りました。

前編2

「防災ガール」を立ち上げた理由

三島:そうして、2013年3月11日に「防災ガール」を立ち上げたと。興味深いのは女性に特化した点ですが、理由はなんだったのですか?

田中:自分が当事者でないとストーリーを語れないというのが第一の理由です。同性である女性をフィーチャーしたほうが自分も理解できるし、興味も湧くし、興味を持ってもらいやすいと思いました。

また、防災に興味のない人を巻き込むには流行を作る必要があります。昔からファッションや文化は若い女性から生まれると言われますが、彼女たちを巻き込むことでムーブメントを起こせたらという考えもありました。

三島:なるほど。注目してもらうためのきっかけは大切ですよね。現在は主にどういった活動をされているのですか。

田中:Webメディア、SNSでの発信が中心です。基本的には災害情報ではなく、どう防ぐかがテーマの「防災メディア」です。それを軸に、新しい防災のしくみやプロダクトの開発など、その時々で必要と思う課題をプロジェクト化するスタイルで活動しています。

前編3

市販の防災グッズは役に立たない?

三島:先ほど新たな防災の価値観というお話が出ましたが、そもそも防災のために何をしたらいいのでしょう? 避難場所を知っておくとか、防災グッズを備えるということでしょうか。

田中:正直、市販されている防災グッズセットは、特定の状況でしか役に立たないと思っています。どんなに備えても、想定された状況で被災するとは限りません。とくに「防災ガール」がターゲットとしている20〜30代の若者は、家は寝るだけの場所。滞在時間を考えたら自宅に備えるより会社に備えたほうが現実的だし、さらには普段から持ち歩けるものでないと、いざというときに役に立ちません。

三島:たしかに、市販されている防災グッズセットは自宅に備えている人が多いですよね。結構な大きさと重さがあるので、つねに持ち歩くこともできません。デザイナーとしても、そのへんは大きな課題です。

田中:そうなんですよ、備えていても使えなければ意味がないですよね。つまり、それは非現実的な防災でしかない。「防災ガール」が提案するのは、普段の生活に「防災」が組み込まれている状況です。そのために大切なことは、「自分はどう生きていきたいのか」「自分の生活には何が必要なのか」、それをきちんと考え、理解することだと思います。

三島:人生設計が防災につながるとは、新しい考え方ですね。

前編4

「防災」のために津波と地震リスクが低い長浜市に移住

田中:私は昨年、滋賀県長浜市に移住したのですが、実は長浜市は地形的に津波に遭遇にしにくく、活断層が少ないため、地震被害が少ない地域なんです。

三島:なるほど。住む場所を選ぶというのも防災のひとつということですね。

田中:はい。しかも長浜市は、そこら中に田畑があります。もし被災したとしても食べ物には不自由しないし、水は地下水なのでずっと出ています。避難場所である公民館も自宅から近い。電波はもともと悪いので、安否確認は電話などより会ったほうがはやい。だからもっとも大切な防災は、地元の方々と仲良くなることだと思っています。

私を含め、若者世代は移動に対するハードルが低い。被災してしまった場合、その地から出るという選択肢があるならば、普段から大それた防災グッズを準備する必要はないわけです。

三島:財布だけ持っていれば、ひとまずどこかへ逃げられますからね。財布を持ち歩いていない人はまずいないので、それも防災につながっていると。

田中:そうなんです。逆に高齢者の方々は自分の家を離れたくないという人が少なくありません。それなら家を耐震にする、必要な物を備蓄するなどやるべきことがあります。その場にとどまりたい人にはその人なりの、外に出たい人にはその人なりの備え方がある。必要なこと、必要な物が何なのか、それは暮らし方、生き方によって変わってきます。

最近は水やお茶などのペットボトルを持ち歩く人が増えていますが、それも防災。ちょっと視点を変えるだけで、すでに防災を実践していることに気づくし、防災は身近なものになるんです。

三島:そう考えると、たしかに防災は「人生設計」であり、「日常」であることがわかります。

防災ガール・田中さんは、日常のイライラを解決するグッズを携帯して、防災を日常化。

防災ガール・田中さんは、日常のイライラを解決するグッズを携帯して、防災を日常化。

日常の「イライラ」を防災に繋げる工夫

田中:それともうひとつ重要なことは、「普段、課題になっていることが、より顕在化し、問題に発展するのが災害時」ということです。

例えば、私はアトピー性皮膚炎なので、汗をかくと体中がかゆくなってしまいます。また徹夜をした朝は髪の毛がべたつきますが、一日シャンプーをしないだけで不快を感じる。災害時はシャワーを浴びることもできなくなるので、皮膚のかゆみや髪のべたつきは余計にストレスになります。

だから、普段から水のいらないスプレータイプのシャンプーやウェットティッシュ、保湿剤などを持ち歩いています。こういった日常の課題解決は、防災時にも大いに役立ちます。日常的に「もう!」とイライラするような瞬間はメモするようにしていますが、これこそが防災を日常化するポイントだと思っています。

三島:それはデザインの考え方と同じですね。大それたことをするのではなく、小さな問題を解決するためにどうすればいいのか、それを形にするのがデザイン。小さな問題が災害時には大きな問題になるというのはその通りだと思います。防災グッズをデザインするうえで、いいヒントをいただきました。

(取材・文:塚本佳子、写真:大澤妹)

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