『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』インタビュー第2回

バーに時計がないのはなぜ? バーに行くと恋愛がしたくなる理由

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バーに時計がないのはなぜ? バーに行くと恋愛がしたくなる理由

1年間だけと決めた不倫の恋や学生時代はモテた女性の後悔、かつての彼女とよく通ったパン屋さんを訪ねた男性……

さまざまな恋愛模様を音楽とお酒のエピソードとともにつづった林伸次(はやし・しんじ)さん(49)による初の小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』(幻冬舎)が7月に発売されました。

東京・渋谷のワインバー「Bar Bossa」の店主でもある林さんに、小説執筆の経緯や恋愛とバーの関係など「恋愛」にまつわるお話を伺いました。

【第1回】僕が恋愛小説を書いた理由

林伸次さん

林伸次さん

バーに時計がないワケ

——小説は「人はなぜ、バーテンダーに恋の話をするのだろう。」から始まります。実は私も昔、このお店に男性を問い詰めるために来たことがあるんです。

林:あ、覚えております(笑)。

——なぜかと言うと、バーという“舞台”であれば、私は変なことをしないなと思ったんです。うっかり密室や崖の上に行っちゃったら2時間サスペンスになってしまう可能性もあるけれど、バーなら月9っぽくなるというか、きれいに終われるなと思ったんです。何が言いたいかと言うと、みんなバーに来ると、恋のスイッチが入るというか、主役になれるというか、バーが恋愛の舞台装置として働いているのかなと。

林:そうですね。やっぱり、そういう舞台というのは当たっていると思います。異次元設定の。

——異次元設定……。

林:お気づきかもしれないですが、バーってどこも時計がないんです。カフェは時計があることが多い。なぜかというと、カフェや喫茶店は待ち合わせに使うからカフェは“日常”なんですね。

バーは「時間のことなんか忘れて、いつまでもゆっくりしてください」ということで時計がないんです。時計があったら日常なんです。

バーは最初から、設定が“非日常”ってことになっているんです。だから暗いんです。値段もよくわからないし。でも「今日はカードで払っちゃえ、この女の子を口説くから」、そういう気持ちで来るのがバーという設定になっている。非日常なんですね。

だから、こういう暗いバーに連れて行かれたら、「今日は私、狙われてる?」とピンときて恋愛モードに入るというのもあるんですよね。

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バーも恋愛も贅沢品?

——なるほど……。バーを敷居が高く感じたり、大人の空間と感じたりするのは非日常だからなのですね。ということは、林さんは人の時間を忘れさせることが仕事ということですね。

林:そうですね、うまいこと言いますね(笑)。時間を忘れさせる……でも、相当変わった職業ではあるんですよね。やっぱり、お食事がなくてもいい場所なので。

例えば、食堂はみんな1日3食食べないといけないから、衣食住の食を担うという役割があるけれど、バーって別になくてもいいんですよね。お酒を飲むにしても、うちに帰って飲んでもいい。恋人と飲みたいんだったら、缶ビールを買って公園で飲んでもいいですし。

でも、そういうバーという設定の場所が欲しいんですよね。バーに来てこうやって飲んで、いい音楽がかかっていて、照明も暗いとロマンティックな気分になるから、口説きやすくなる。そういう舞台なんですよね。

——恋愛もそうなのかもしれない。

林:そうですね。なくてもいいですよね。

——なくても生きていける……。

林:高等遊民の遊びですね。

——贅沢品ということなのでしょうか?

林:そうですね。だからバーも贅沢品だと思います。

——でもそれがあるだけで、世界の見え方が変わりますよね。

林:多分そろそろバーもなくなると思います。今、オシャレ離れがすごく進んでいるし、世界がカジュアル化しているんですね。

僕はバブル時代をギリギリ経験しているので、レストランというのは、ネクタイをしてジャケットを着て革靴で行くものだと思っていたんですが、最近の話題のレストランは店員がキャップを被っていて、靴はニューバランスだったりする。「格好つけてマティーニを飲む」というのが歌舞伎のような「文化遺産」になりつつある。

だから、バーは銀座や都会の街に数件は残ると思うんですが、そのうち「マスターがシェイカーでシャカシャカしている画」というのは「なんか映画で見たことがあるよね」というものになっていくんじゃないかなと思います。

——「おしゃれはほどほどでいい」のですね。“日常”がどんどんカジュアル化して、非日常がどんどん少なくなっているということですよね。なんだか寂しいなあ。

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「あの頃の東京」を残したかった

林:先ほど「バーなら月9っぽくなる」とおっしゃっていましたけれど、僕の勝手なテーマなんですが、今回の小説は「勝手に裏80年代」というのがテーマなんです。ちょっとバブルっぽいんですよ。

わたせせいぞうさんの『ハートカクテル』というマンガがすごく好きなんです。「雰囲気だけ」「ただおしゃれなだけ」と一部ではすごく叩かれたんですが、何も悲しいことも辛いこともない、出てくる人たちもトイレにも行かない、セックスもしないようなすごく美しい世界を描いていて、そこにバーが出てくるんです。そういう雰囲気がすごく好きなんですよね。嘘みたいな世界。そういうのをもう1回やれたらいいかなっていうのがありました。

——嘘みたいな世界か。

林:(映画監督の)ウディ・アレンってある時代のニューヨークやパリを意識的に残しますよね。

——確かに、黄金期のハリウッドとか50年代のニューヨークとか……。

林:それと一緒で、東京とか渋谷というのを何となく落とし込んでいきたいなと思ったんです。80年代の東京ってこんな街だったんだなとか、あの時代の東京を残したいなと思ったんです。

——80年代に惹かれるのはなぜですか?

林:多分、実は根が80年代なんですね。80年代に多感な時期を過ごしてしまったので。僕、音楽が好きなんですが、80年代って偽物の時代なんです。軽いというか。あのころ初めてミュージックビデオというものが出てきたんですね。

今までは、70年代までは、ベトナム戦争が終わった後で、シンガーソングライターが自分たちの心のことやつながりのこと、家族のこと、恋人のこと、友だちのことを歌っていたんですけれど、80年代になったらすごく華美になって、シンセサイザーが流行って、マドンナがジャラジャラ(アクセサリーを)つけたり、マイケル・ジャクソンが異常なルックスだったり、とにかくすごかった。そういう時代だったんですね。

ミュージックビデオが出てきたときに、ルックスがいい人じゃないとアーティストになれないっていう時代でもあったんです。とにかく、ルックスがすべての時代だったんです。とにかくみんながちょっと普段の自分よりも背伸びをするというか、虚栄心が見える、そういう時代だったんです。それが好きなんです。好きというか、自分の根っこにあるんですよね。

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※次回は9月1日(土)公開です。

(聞き手・Duniakita編集部:堀池沙知子、撮影:河合信幸)

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