「ボクたちの人生はSNSで変わった」後編

「SNSおじさん道中記」だった燃え殻さんの小説とテアトル新宿が似合う『伴走者』

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「SNSおじさん道中記」だった燃え殻さんの小説とテアトル新宿が似合う『伴走者』

NHK職員時代に開設した広報局ツイッターが人気を博し、小説を発表することになった浅生鴨(あそう・かも)さんと、テレビの美術制作の仕事をしながら日報代わりに始めたツイッターが話題になり、去年、初の小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)を発表した燃え殻(もえがら)さん。

ともにテレビ業界に所属し、SNSで人生が変わったという共通点を持っています。

このほど、マラソンやスキーなど視覚障害者のスポーツ競技で、選手の目の代わりを務める“伴走者”に焦点を当てた浅生さんのスポーツ小説『伴走者』(講談社)の発売を記念したトークショー「ボクたちの人生はSNSで変わった」が「青山ブックセンター 本店」(東京都渋谷区)で開催され、浅生さんと燃え殻さんが対談をしました。

トークショーの内容をDuniakita編集部が再構成・編集して前後編にわたってお届けします。

【前編】SNSで人生は変わったんですか?

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ハンカチ落としみたいに小説を書く機会がやってきた

浅生:燃え殻さんの『ボクたちはみんな大人になれなかった』。この本を研究してきたんですけれど、まずはカバーに印刷されたタイトルが箔押しなんですよ。

そして多分、カバーに使われている紙はヴァンヌーボじゃないかなと。キラッとしていて、すごくいい紙ですが、 高いです。僕は広告の仕事もしているんですが、ポスターの紙に「ヴァンヌーボを使いたい」って言うと、「ダメ」って言われるんですよ。

燃え殻:いい紙にしてくださいって言いました。箔押しは「しますか? しませんか?」って言われたので、「します」って。

浅生:箔押しはコストがかかるんですよ。

燃え殻:そう。でも、「人生で誰もが一冊は小説が書ける」って言うじゃないですか。それがハンカチ落としみたいに僕に回ってきたと思ったんです。人生で1回、小説が書けるといったら、何を書くか? って僕なりに真剣に考えて。そのときに、全部、後悔しないようにしたいなと思ったんです。

こうやったらクサいだろうな、これ言い過ぎかな? とも思ったけれど、でも、それも全部やろうと思って。箔押しをやろうって思ったのもそれです。

だから、人生で一冊しか本を出せないとしたら、紙もよくしたくないですか? 「箔押しもしてもいいですよ」って言われたら、しますよね(笑)。そういうことです。

「ボク」をカタカナで書いた理由

浅生:表紙をめくって、目次の前にあるタイトルは小さいんです。「ボクたちはみんな大人になれなかった」って。ところが目次はめっちゃデカいんですよ。このデザインがすごいなと思ったんです。で、この次のタイトルはデカいんですよ。これは装丁部が決めたんですか?

燃え殻:装丁部じゃないです。デザインっていうか、それに関しては、担当編集の人と一緒に決めました。僕よりも、編集の人がそうしたいとこだわってくれました。

浅生:柱がページ下のセンターにあるじゃないですか。柱の「1999年に地球は滅亡しなかった」という文字が、ノンブル(ページ番号)の下にあるんです。これが面白くて。三角形で支えてるみたいな。そういうデザインになっていて、なるほど、下で支えてるんだなって。

燃え殻: Twitterでも思っているんですけど、漢字とひらがなの比率みたいなものも。ひらがなの比率が多いほうがいいなとか“絵”として見ちゃうんですよね。だから、小説のデザインだったり、バランスみたいなものも面白くなければダメだと思った。

浅生:図形としてページが設計されているのが面白いなと思いました。「小説の話をします」って言って、まず装丁やデザインから入るっていう(笑)。

中身の話をしてもいいんですけれど、中身の話で最初に気付いたのは、カタカナで「ボク」って書いているじゃないですか。ここに多分、燃え殻さんの秘密があるなと思ってて。

燃え殻:「僕」という漢字ってすごく混みあってません?

浅生:ひらがなじゃなくて、カタカナにしたのは?

燃え殻:「僕」とか「俺」というのは、読んでてノイズがあるなって。漢字の形がちょっと……。

浅生:カタカナの「ボク」って、なんとなく人じゃない感じがしませんか? 「ボク」というのは燃え殻さん自身のことじゃなくて、「人間っていうより別のカギカッコの中に入ってる人間だよ」という照れがあるのかなと思って。

燃え殻:照れもあります。

浅生:これは私ではないのである、という表明としてのカタカナの「ボク」なのかなっていう気がする。

燃え殻:意識はすごくしました。「ボク」っていうカタカナには。一人称で語っていくときに、ある程度、乗っかってってくれるものがよくて。カタカナの「ボク」は重さが丁度よかった。

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最初は「SNSおじさん道中記」だった

浅生:もうちょっと細かく聞くと、タイトルの「ボクたち」の「たち」って誰なの?

燃え殻:これ、タイトルから決めたんです。恵比寿の飲み屋で「cakes」に連載することが決まって、最初に編集の人が軽い感じで「『SNSおじさん道中記』どう?」って言ってきて。

浅生:「SNSおじさん道中記」(笑)。

燃え殻:僕、人生で1回しか本を出さないかもしれない。それが「SNSおじさん道中記」ってもう嫌じゃないですか。「嫌です」って言ったんですよ。「じゃあ今決めてください」って言われて。そのとき、レモンサワー飲みすぎてて、「じゃあ『ボクたちはみんな大人になれなかった』っていうのはどうですか?」って口がすべって。

浅生:それは連載前に? じゃあタイトルに引きずられて、中身が決まっていったって感じ?

燃え殻:いや、1~2話くらい書いてました。内容が、SNSの話だったじゃないですか。だから「SNSおじさん道中記」だろって。理にはかなってるけど、納得はいかない(笑)。

浅生:何の情緒もない。

燃え殻:「SNSおじさん道中記」で売れたら、二重苦じゃないですか。

浅生:じゃあ、そのタイトルまだ空いてるのね。

燃え殻:『伴走者』の次に『SNSおじさん道中記』やってください。四国編とか。

『伴走者』はテアトル新宿が似合う

燃え殻:鴨さんの『伴走者』は純文学に入りますよね。

浅生:僕は単にエンタメとして書いたんですけどね。

燃え殻:『伴走者』はエンタメですか?

浅生:エンタメじゃないのかな?

燃え殻:僕、読んだときに、これよいか悪いか分からないですけど、(映画館の)テアトル新宿だなと思ったんです。『伴走者』がかかるとしたら。東宝シネマズにはかからないじゃないですか。

浅生:シャンテはダメ?

燃え殻:シャンテはあるかな。シャンテはあるけど、テアトル新宿のほうがピッタリくるんですよ。

浅生:武蔵野館は?

燃え殻:武蔵野館よりはある種、エンタメなんですよ。テアトル新宿ってそうじゃないですか。分かります? 武蔵野館からの帰りっていうのは、みんな無表情になりますから。

浅生:武蔵野館からの帰りは、自分が何かいいことをしたような気がする。

燃え殻:そう。だから、僕、武蔵野館の中で写真とか撮っちゃうもん。「武蔵野館に来てる俺」みたいな。でも、テアトル新宿だと撮らないじゃないですか。でも、テアトル新宿のほうが、見終わったあとのエンタメ度は高いじゃないですか。分かります? だから、そういう感じなんです。だからテアトル新宿だなと思って。

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燃え殻さん、次回作は?

浅生:まだまだ話を聞きたいんですけど。次回はどうなんですか? 何か準備されているんですか? 今、文春オンラインで人生相談をやられていますけど、この次、何か連載とか予定はあるんですか?

燃え殻:多分。受注産業としては、頑張ります。

浅生:小説はどうなの? 準備はしてる?

燃え殻:はい。

浅生:いつ頃?

燃え殻:全然そんな、「いつ」とは分からないくらいのレベルの準備の仕方です。

浅生:でも次も装丁から考えている、と。

燃え殻:それはもうモヤっとありますね。中身はまったくないですけれど。

浅生:楽しみですね。

(取材:Duniakita編集部・堀池沙知子)

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