もしあの女性(ひと)がオフィスにいたら…?

松嶋菜々子型女子が醸すラスボス感の正体について考える

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松嶋菜々子型女子が醸すラスボス感の正体について考える

「もしあの女性がオフィスにいたら?」
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今回取り上げるのは女優の松嶋菜々子さんです。『魔女の条件』(1999年、TBS系)、『やまとなでしこ』(2000年、フジテレビ系)、『家政婦のミタ』(2011年、日本テレビ系)などのヒット作に主演し、私生活では夫婦揃って理想のパパ・ママに選ばれる*など。公私ともに“最強”な松嶋さんのような人がもし同じオフィスにいたら——?

*「イマドキのパパ・ママのくらしと子育てに関する調査2018」(メディケア生命調べ)

「何かあるんじゃね?」

ミッツ・マングローブ氏は週刊朝日の連載「アイドルを性(さが)せ!」(2017年11月17日号)にて、「」と評している。明白な闇とは不思議な言葉だけれど、それは私たちが松嶋菜々子を見たとき、彼女が持つ輪郭のくっきりとしたまっとうさ、クリーンなメインストリーム感の背後に、黒く深くパックリ口を開けた闇が確実に目に飛び込んでくるという意味ではないだろうか。

ミッツ氏は、2011年以降3代目パブロン母に起用された松嶋菜々子の母姿を、

「とにかく怖い。母娘のほのぼの設定にもかかわらず、今にも『あのね、ママはホントのママじゃないの』とか、『このお薬飲んだこと、誰にも喋っちゃダメよ』的なことを言い出しかねないサスペンス臭がぷんぷんする」(同記事から引用)

とも記述している。これまでの芸能生活で、誰もが思い出すようなしくじりや醜聞、事件などはなく、突飛さがウリのいわゆる「個性的な女優」でもなく、一皮向けたとか破天荒な要素はひとつも見聞きしないのに、そこにいるだけで「何かあるんじゃね?」感のある稀有な女優。

誰もが認める整った美しさから立ち昇るどこか不穏な空気、そして底知れぬ脅威を感じさせてやまぬラスボス感は、いったいどこから来るのだろう?

何もかも手に入れて超然としている生き様ごと「女優」

……映画とファッションとイケメンを愛する後輩女子のB子が言いました。

「河崎さん、松嶋菜々子さんが来年4月から始まるNHK朝の連続テレビ小説『なつぞら』のヒロイン・広瀬すずちゃんの義母役に決定したそうですよ。彼女が一流女優の仲間入りをした1996年の『ひまわり』主演以来のNHK朝ドラ。私は90年代の小中学生時代、松嶋菜々子さんのドラマを立て続けに見て育ったので、感慨深いですね」」

河崎:ご自身も反町隆史さんとご結婚されて、今では2女の母。さすがのビッグカップルは夫婦揃って学校行事に参加する姿をいつも週刊誌にキャッチされていますが、パブロンCMといい、いわゆる理想のママ系ランキングの1位常連ぶりといい、すっかり安定的な母親イメージが定着した印象ですね。

B子:ビッグカップルや安定感との言葉どおり、何でしょうね、松嶋菜々子さんが登場すると「キタっ!」「出たっ!」というラスボス感を感じるんですよね。往年の大女優感、というのともちょっと違う気がするんです。

河崎:それは、これまでの豊富なドラマ主演・出演経験に培われた良質で複合的なイメージのおかげかもしれないですね。NHKの朝ドラ「ひまわり」の主演、反町隆史さんと出会うきっかけとなった『GTO』(1998年、フジテレビ系)、『魔女の条件』では男子生徒と禁断の愛に陥る女教師を演じ、『やまとなでしこ』でも大成功、大河ドラマ『利家とまつ』は主演、『家政婦のミタ』ではターミネーター然とした家政婦を演じてちょっとした社会現象化するなど、彼女が出るドラマは成功の連続。今や「あの」松嶋菜々子が演じるというだけで、ニュースバリューがありますよね。

B子:松嶋菜々子さんの下の世代としては、あんなに何もかもを手に入れて超然としている姿に凄みを感じるんです。生き様ごと女優というか。安定を手にすることは、同時に女優としては何かを失うことだと考えられがちだけど、松嶋さんは家庭も仕事も両方手にしていますよね。しかも、夫も俳優として衰えていなくて、夫婦格差がない。これって、今のキャリア女性に見られる年下婚や格差婚とは異質で、珍しいことだと思うんですよ。

河崎:なるほど、最近の潮流はリラックス婚ですよね。仕事に打ち込むからこそプライベートは癒される相手と癒される結婚をする女性が増えていて、なんならもう生身の男はめんどくさいから要らないとまで言う女性もいる中で、同世代で同等の社会的活躍をしている同業者と家庭を持ってなお成功を続ける松嶋菜々子さんは、確かに連戦連勝感があります。そりゃラスボスだわ……。

B子:でしょう。その上でなお「何かを背負った人」を演じて凄みが衰えない。そこがすごい。

ただの美人じゃない。努力する美人

河崎:脚本家の遊川和彦さんとの出会いが、松嶋菜々子という女優をオンリーワンのものに格上げしたという感じはしますね。『GTO』『魔女の条件』『家政婦のミタ』は遊川さん脚本で、絶妙にひねった役を好演して、どれも大成功しています。遊川さんが松嶋菜々子という女優を見つけて、その端正な美貌の裏にもし邪悪なものや人に言えないような葛藤などのネガティブなものがあったらすごく面白い、と気づいたんじゃないでしょうか。「ただの美人じゃない」と。

B子:あっ、そうそう、ただの美人じゃない感じがすごくします。人の目を捉えて離さないような抜群の吸引力がある美貌とか演技のセンスとか、そういう天賦の才能で仕事をしているのとは違う感じ。天才よりは秀才。もの凄くコツコツと努力していそうです。

河崎:松嶋さんがこう答えているインタビューがありましたよ。「変化は環境が与えてくれるもの。結婚や出産、新しい作品の経験によって何かが生まれるというよりは、それを消化してきた自分がスパイラルするようにして年を重ねて、変わっているように見える」。本人はきっと、普通に野心や向上心のある、普通に努力のできる女性なんでしょうね。でも「普通に生きる」って一番難しいことだと言いますよね。だって、人生って想定外や紆余曲折が当然あるものだから。ぶつかって倒れたり折れたり諦めて放り出したり、みんな何かしら挫折してはナナメった姿勢になるじゃないですか。屈折するというか。

B子:松嶋さん自身は、淡々と仕事をこなしてきただけかもしれないけれど、オフィスで働く私たちもその「淡々とこなす」ことがどれだけ大変か知っています。めちゃくちゃ努力しているはずなのに、それらを水面下に隠して涼しい顔をされたら、そりゃ「ラスボス感」も出てくるよなぁ、って。

河崎:松嶋菜々子さんのキャリアに逆境がなかったわけはないんですよね。でもどんな苦しい目や嫌な目に遭っても「屈折」しなかった結果が、今の彼女の大物感、ラスボス感につながっているのかもしれません。ここのところ、「しくじり」とか屈折にこそ世間の共感が寄せられて、ダークヒーローがもてはやされていますが、実はダークなままではヒーローにはなれない。息長く活躍するためには、ダークを克服して、すっきりとした表情と姿勢でメインストリームに立たなきゃいけないんですよね。松嶋菜々子さんの息の長い活躍に、私たちも自分のキャリアとの向き合い方を学ばされます。

(河崎 環)

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あの女性(ひと)なら、頭の固い上司にガツンと言ってくれたり、優しく悩み相談に乗ってくれたり、時にはライバルとして切磋琢磨しあったりするのかも。ワクワクするような想像を、コラムニストの河崎環さんが鋭い視点で分析していく連載エッセイ。

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