もしあの女性(ひと)がオフィスにいたら…?

同級生にいたようなデジャブ感だだよう、安藤サクラ型女子の底力とは

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同級生にいたようなデジャブ感だだよう、安藤サクラ型女子の底力とは

「もしあの女性がオフィスにいたら?」
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河崎環さんによるこの連載、今回取り上げるのは女優の安藤サクラさんです。32歳1児の母でありながら、2018年後期のNHK朝の連続ドラマ小説『まんぷく』のヒロインに抜擢。出演した映画『万引き家族』(是枝裕和監督)がカンヌ国際映画賞で最高賞・パルムドールを受賞するなど、連日のように名前を目にする安藤さん。彼女の底力とはいったい……?

カンヌに衝撃を与えた演技力

安藤サクラ。エッセイスト・安藤和津と俳優・奥田瑛二の娘だなんて、二世どころか犬養毅の四世ではないか……(安藤和津は犬養毅の孫にあたる)。

第71回カンヌ国際映画祭で、是枝裕和監督の『万引き家族』がパルムドールを受賞したとのニュースが日本を駆け抜けたのは、つい先日のこと。その直後に是枝監督が記者たちに披露したエピソードは、女優・安藤サクラの世界レベルの実力をいよいよ本格的に世間に知らしめた。

「審査委員長のケイト・ブランシェットさんは公式の記者会見でも、演出と撮影と役者、そのトータルでよかったという話をしていましたが、その時は安藤サクラさんのお芝居について熱く熱く語ってくれました。…(中略)…『もし、今回の審査員の私たちがこれから撮る映画の中であの泣き方をしたら、安藤サクラの真似をしたと思ってください』と。それくらい、彼女の、この映画における存在感は大きく、虜にしたんだなということがよく分かりました」(是枝裕和監督)

映画『百円の恋』(武正晴監督)で初めて主演の安藤サクラを見たとき、母親の特徴を絶妙に映した目元と父親を彷彿とさせる狂気を帯びた演技に、私はDNAの正確な仕事ぶりを知って身震いする思いだった。

引きこもりの32歳の女性がプロボクシングに挑んでいくという同作では、不摂生でぼってりと緩んだ姿からボクシングで10kg絞られていく様を演じてみせ、「和製デ・ニーロ」とも呼ばれた。同世代の女優たちとは次元の違う「ゾーン」の中で、浮遊するような、取り憑かれたような異色の演技を見せる32歳、一児の母だ。

同級生にいたような気がするデジャヴ女優

……映画とファッションとイケメンを愛する後輩女子のB子が言いました。

「ちょっとちょっと河崎さーん、『万引き家族』はカンヌ獲っちゃうし、朝のドラマ小説『まんぷく』のヒロインには決まっているしで、”安藤サクラ株が高騰間違いなし”なんて記事も出てますよ。邦画界では既に押しも押されぬ大人気女優さんですが、いやー、私は必ずくると思ったんです、彼女は」

河崎:大塚製薬のイオンウォーターの広告にもフィーチャーされていますよね。社会人となったスーツ姿の女性が女子高校生に「おとなはねぇ、ながいよー」と語る。

「甘くない。引きずらない。もう、青くない。」というコピーを背に、あんなに嫌味なく「おとなになること」を表現できる女優さんがいま他にいるかしらと。毎朝のように電車の吊り広告で見ますが、どの風景にもシチュエーションにもすごく自然に馴染んで主張しすぎないあの佇まいは、出色の才能ですね。

B子:いかにもな美人ではない、というのもいいんですかね? あと、既婚で一児の母で、という安定感も?

河崎:そこなんですよ、女優さんという職業の特性もあって、あからさまな色気を放たない女優って貴重だと思うんです。ファブリーズのCMでブレイクした平岩紙さん、『重版出来!』(TBS系)以来主演女優に踊り出た黒木華さん、『コウノドリ』(TBS系)で隠れペースメーカーのような安定感を提供した江口のりこさん、そして安藤サクラさん。

誰が見ても手放しで絶賛する美女や、見るからにファニーフェイスというわけではないのに、その薄く和風の佇まいが視聴者の心のどこかにそっと引っかかり、印象を残す。そういう、輪郭線が細いがゆえにどこにでも馴染み、演技力にも絶大な信頼感を持たれる実力派女優さんを、私は「デジャヴ(既視感)女優」と呼んでいます。

B子:ああ、自分の友達にもいそうな、どこかで見たことがある普通感、リアル感がありますよねー。安藤サクラちゃんがドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)のヒロインを演じたときも、職場の後輩にこういう雰囲気やリズムの子っているなぁと思いました。でもサクラちゃんって、すごい芸能一家の次女ですよね。

「家=育ちの良さ」ではない

河崎:「安藤サクラの存在自体が文化資本」といっても過言ではないほどですよね。エッセイスト安藤和津さんと俳優・奥田瑛二さんの次女で、お姉さんは映画監督・作家の安藤桃子さん。

曽祖父が昭和の大宰相・犬養毅で、血縁には緒方貞子さんや犬養道子さんもいらっしゃいます。明治から昭和にかけての日本の政治も文筆も映像も芝居もDNAに織り込まれている。なのに「名家出身の女優でございます」感はゼロ。

B子:ちなみに結婚のお相手は俳優の柄本佑さん。俳優・柄本明さんと女優・角替和枝さんの次男で、お兄さんも俳優の柄本時生さんです。安藤サクラさんと柄本佑さんの結婚当初は「二世婚」とも言われたことがあったようですけれど、お二人には「二世」という言葉のチャラチャラしたイメージや、親の七光り感が全くないですね。

河崎:親が有名人なのにそれを仕事の売りにする必要がないのは、実力がある証拠ですね。政治家で言うと小泉進次郎さんとか、俳優で歌舞伎役者の香川照之さん、最近では落合陽一さんなんかもそう。キャリアをしっかり作って「現在の自分」ブランドがある人には、もう周りの誰も親を持ち出してこない。

B子:盤石なバックグラウンドと実力と……。なんかもう、同世代の女優は安藤サクラちゃんには勝てない気がします。白旗を上げるしかない。同じ土俵には上がれないですよね。

河崎:「育ち」は後からつけることができない、最たるもの。育ちの良さって、よく勘違いされていますが、単に血筋がいいとかお金があるとか有名人の子供だとか、そういうことじゃ全然ないんです。

育ちの良さというのは「周りの大人や人間に無条件で愛され、大人たちの知恵や哲学に触れて慈しんで育てられた」という、根本の在り方。

自己肯定感や他者への信頼感に裏打ちされた知恵や知識こそが「育ちの良さ」の表れだと思います。大人から愛情をたっぷり注がれ、豊かな文化資本もたっぷり受け継いで教養を育んだ。だから、ひがみがない。愛や承認を乞わなくていいんです。

B子:そう考えると、お金持ちの家庭や、有名人の家庭に生まれた人にも、妬み・ひがみ・そねみの強い人なんかたくさんいますよね。でも妬みやひがみのない人間に対して、確かに周りの人は足の引っ張りようがないかも。

そういえば安藤サクラちゃんの演技って、他の役者と競ったり「ドヤ」と視聴者に見せつけたりというよりは、挑戦のベクトルが限りなく自分自身に向かっている気がします。

河崎:職場だと特に「あいつは誰々の息子・娘で、コネがすごいらしい」とか「未来の幹部候補」とかの噂が絶えないものですけれど、本当に実力があって「現在の自分ブランド」ができると、周りはそんなの言わなくなるんです。

二世とか三世とか、もうそんなものをたどることが無粋になってしまうんですね。政財界でも芸能界でも芸術や文筆界でも、いつまでも「◯◯家出身」「誰々の息子・娘」が最前面に出ている人材は、「家」や親を超えることができず、その程度なのかもしれない。

そういえばルパン3世だってアルセーヌ・ルパンの三世ですけど、日本じゃルパンといえば断然3世のほうじゃないですか!

B子:河崎さん、それフィクションですから……。

(河崎 環)

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もしあの女性がオフィスにいたら?

あの女性(ひと)なら、頭の固い上司にガツンと言ってくれたり、優しく悩み相談に乗ってくれたり、時にはライバルとして切磋琢磨しあったりするのかも。ワクワクするような想像を、コラムニストの河崎環さんが鋭い視点で分析していく連載エッセイ。

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