『であすす』著者・花田菜々子さんインタビュー 後編

12年働いた会社を辞めて「女性のための」本屋の店長になるまで

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12年働いた会社を辞めて「女性のための」本屋の店長になるまで

仕事は好きだし、会社での評価も悪くない。でも最近、なんとなく停滞感を感じている……。

4月に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社)を上梓した花田菜々子(はなだ・ななこ)さんも、「キャリアの踊り場」を感じて悩んだ時期があったそうです。

12年勤めた会社を辞め、「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」(以下、HIBIYA COTTAGE)の店長になるまでの歩みについて、話を聞きました。

花田さんが店長を務める、HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEにて

花田さんが店長を務める、HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEにて

【前回は】出会い系で本をすすめて気づいたこと

踊り場に出て、目標を見失った

——著書の中で、コーチングをしているユカリさんという女性とXで知り合い、「これから自分がどうしたいっていうのが、全然わからないです」と心情を吐露する場面がありますよね。どういう状況だったのでしょうか?

花田:私はヴィレッジヴァンガードに入社した時から、「いつか下北沢で書籍の担当をするのが夢です」って、会社の中でずっと言い続けていまして。29歳のときにそのチャンスが巡ってきたんですね。嬉しかった反面、そこまで階段を駆け上ってきたのに、落ち着いてしまった感じがあって……。

——踊り場に出ちゃった感覚があった?

花田:踊り場に出て、そこで足が止まっちゃったんですよね。

今思えば、私の20代は、道なき道をサバイブして行く日々だったんです。会社で初の女性店長になって、働き方とか振る舞い方とか、誰をモデルにすればいいかわからないし、どういう人に憧れたらいいのかさえわからなかった。この会社で憧れの対象となる女性像って、ヴィトンのバッグを持って颯爽と歩いているとかそういうことじゃないよね……っていうのはわかっていて。

店長になったことで、会社の中でどうやって自分の地位を築いていくかとか、何を実現していきたいかという課題も生まれました。「店作り」や「本を売ること」というテーマと向き合って、スキルを習得していく毎日だったんです。

次のステップは、今いる場所の外にあった

——踊り場に出たことが、「自分らしくいられるヴィレッジヴァンガード」を見つめ直すきっかけになったんですね。ユカリさんと話す場面では、「今あるものが何も残らないような気がする」と、辞めることをためらう様子も描かれています。今振り返ってみてどうですか? やっぱり何も残っていない?

花田:いいえ。ヴィレッジヴァンガードを土台にして、さまざまなものを積み上げてきたイメージの方が大きいですね。

意を決してヴィレッジヴァンガードを辞めた後、蔦屋家電という書店に、ブックコンシェルジュとして入社しました。そこで、同じ書店員という職種でも、ヴィレッジヴァンガードとは全く違う方法論があるということを学んだんですよね。その後、ご縁があり「パン屋の本屋」という10坪くらいの小さな書店を任せていただく経験をしました。

今店長を務めているHIBIYA COTTAGEでは、過去の3店舗で経験したことすべてを活かしています。パン屋の本屋を辞めて、HIBIYA COTTAGEの店長を引き受けると決めた時は、いろいろな人に反対されたんですけどね。

——なぜ反対されたんですか?

花田:パン屋の本屋には、「花田さんの手が行き届いていていい書店だね」と言ってくださる常連の方が多かったんですね。だから「何で辞めるの?」って。

自分でも、150坪で女性向けの本屋をやるというのは、すごく難しいと感じていました。「そんなことが、自分にできるのかな」っていう不安はすごくあったんですけど……。でも、いざ引き受けてみると、なんとか形になりました。「私って、こういう店を作れるのか」という自信がつきましたね。

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ふらついたり、目移りしたりしてもいい

—— HIBIYA COTTAGEのコンセプトは「女性のための本屋」ですが、女性のためにどういうセレクトをしているのでしょう? 「女性のための」の定義が気になります。

花田:女性のためのコーナーを作るときに、とりあえず「キラキラ輝くモテテク」みたいな本を集めがちなのですが、「女の人はこういうものが好き」「だからこんな感じでいいか」という固定概念で作られた棚を見ると、手抜きをしているなと感じます。

だって、女の人はそんなに単純じゃないですよね。ピンクを好きな人はピンクだけが好きなのではなく、同時に、ベージュとか紺もすごくかわいいと思うのが女性です。好きなことも興味があることも全部がゆるやかにつながっていると思うんです。

——以前、別のインタビューで、「これが好き」じゃなく、「これも好き、あれも好き」という感覚があってもいいんじゃないかということを仰っていましたね。

花田:なんとなく、1個しか取っちゃいけないような気持ちになるのはなんでだろう? ふらついてもいいと思うんですよ。

——服装でいえば、カジュアルな格好をしたいときもあれば、Aラインのワンピースを着たくなるときもありますよね。そういう自分を客観的に見ると、「30歳を過ぎているのに、まだキャラが定まっていない」って不安を感じることもあるんですけど。「ふらつくものだよね」と考えると、ラクになります。

既婚女性と未婚女性を分断しない棚づくり

花田:そうですよね。例えば、宝塚や演劇を観に日比谷に来た女性が、「そうだ、結婚のことがちょっと気になってるんだよね」って本を買うことがあってもいいと思うんです。

興味のあるものだけじゃなく、ちょっと遠いところにあるカルチャーや考え方について書かれた本を気軽に手に取ってもらって、世界を広げるヒントになるお店にしていけたらいいですね。それから、たとえば結婚している女性と未婚の女性を分断し、対立構造をあおるような本屋にはしたくないなと思っています。

——確かに、書店の「育児・出産コーナー」がガチッと聖域のように区画されていると、足を運びにくいです……。

花田:育児エッセイなどは、育児をしている人だけが読むと思われがちですが、子どもがいない人が読んでも面白い。その本を読んで得たことって、未婚で子どものいない読者にもフィードバックされると思うんですよ。

——次は、じっくり本を探しに来たいと思います。お話を聞きに来たはずが、最後はお悩み相談という感じになってしまいました(笑)。

花田:友だちも含めて、この本を読んだ方と会うと、みんな突然、自分語りをしてくれるんですよ。言い方が悪いですけど、みんな聞いてもいないのに「私の場合はこうで」っていう話をしてくれる(笑)。そういうお話を聞くと、この本が心を揺るがすきっかけになったんだなと思って、ジーンとしますね。

(取材・文:東谷好依、写真:面川雄大、撮影協力:)

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