もしあの女性(ひと)がオフィスにいたら…? 第13回

「大企業の社員」というブランドを失うのが不安な貴女へ 篠原涼子のアップデート力

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「大企業の社員」というブランドを失うのが不安な貴女へ 篠原涼子のアップデート力

「もしあの女性がオフィスにいたら?」
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大手企業や有名企業に勤めていると、その看板を失うのが怖くなってしまうことがあります。でも、自分の意思には関係なく、その企業ブランドを手放さなきゃいけなくなることもあるはず。そんな時、私たちに必要な心構えとは——? 1990年後半、TKファミリー全盛期に、小室哲哉プロデュースを卒業した篠原涼子さんの活躍からひも解いていきます。

多くを語るわけじゃないのに、圧倒的な存在感

もう誰になんと言われたっていい。高橋一生を見ていたら疲れもイライラも忘れちゃう。高橋一生が私の毒消し。そんな不純な動機のみで先クールの月9ドラマ、フジテレビ系列『民衆の敵』を毎週追いかけていた私。影のある二世議員役の一生が見せる「オンザロック指混ぜ」「セクシー生クリーム舐め」などのふんだんな視聴者サービスシーンに呼吸困難を起こしたりして「一生中毒」に拍車をかけていたが、見続けるうちにふと興味の対象が変わってしまった。

私と同い年の篠原涼子だ。

今年45歳になる彼女の印象を一言で表すと、「敏捷(びんしょう)そう」。つまり、頭の回転や動作のキレなどのレスポンスの良さに、運動神経の良さや野生的なセンスを感じさせるということなのだが。キュッと引き締まってしなやかな筋肉に包まれたプロポーションもすごいけれど、コミカルとシリアスを上手に同居させた、緩急ある演技からも敏捷さを感じる。40オーバーの女優の中で、非婚とか酒飲みとかを売りにするわけでなく、あるいはママタレになるわけでもなく、プライベートも充実していそうに見せながらこれだけ「仕事で動ける」人って、ちょっと他には思いつかない。

これまでの主演ドラマの本数やヒットぶり、主役を十分に張れる演技力を見たって、篠原涼子は押しも押されぬ現代の「主演女優」だ。でも全然イヤミにならない。もちろん美しいひとだ。でもファニーフェイスと言われればそうとも思う。変な話、彼女には注目を浴びる女優という職業につきものの「男女ともに熱烈なフォロワー」を見たこともないぶん、「男女ともに激烈なヘイター」も聞いたことがない。

それはたぶん彼女のクレバーな敏捷さゆえ。アイドル時代の活躍も、女優への転身も、超大物舞台俳優である市村正親との年の差婚と出産も、数々の主演作も、世間に「思い出」にされてしまう前に次々と新しい仕事で篠原涼子というイメージをアップデートし続け、しかもあくまで演技で勝負をして、余計な——いかにも「女優」っぽい——エゴを見せないからだ。

他のTKファミリーとの違いって?

……独身アラサー編集のY子が言いました。「小室哲哉さんの引退会見が大きな反響を呼びましたね。安室ちゃんも引退しちゃうし(涙)。いよいよ90年代が終焉を迎えたんだと感じました。そういえば、篠原涼子さんも元TKファミリーでしたよね。卒業後のキャリアも長いからか、そういえばそうだったよねという感じなのですが、篠原さんは他のTKファミリーと何が違うんでしょう?」

私:たぶん若い世代の中には、篠原涼子さんが小室哲哉さんのプロデュースで『愛しさと せつなさと 心強さと』を歌ってたとか、ましてその前は東京パフォーマンスドールでアイドルをやってたなんて知らない人も多いと思うんですよ。ダブルミリオンと呼ばれる200万枚以上の売り上げを誇った『愛しさと〜』が1994年で、その翌年のアルバム『Lady Generation 〜淑女の世代〜』でTKプロデュースは卒業したんですよね。

Y子:『愛しさと〜』の頃、私は小学生でした。TK全盛期に思春期を迎えたので、安室ちゃんを筆頭に、あの頃のTKファミリーには思い入れが強いです。

私:あの頃のTKファミリーって絶対正義というか、「TKプロデュースにあらずんばヒットならず」みたいなところがありました。TKプロデュースからの卒業って、世間的には「あっ……(察し)」な事態だったわけで、事実はどうであれ「ああ、TKは心変わりをしてしまったのね……」というのが、あの頃の一般視聴者の、正直な感想だったような気がします。

Y子:もちろん背景には事務所の戦略などさまざまな事情があったのでしょうが……。TKプロデュースという看板を失うことは、不安だったんじゃないかなと思います。

私:だからあの頃が、篠原涼子さんとしてはキャリアの大きな転換でしたよね。そこから徐々に女優としての活躍を広げていくんですが、同い年、40代の私は篠原さんが演技の道でこんなに大成するとは想像もしていませんでした。

Y子:いま30代の女性は、2000年代に入ってからの篠原涼子さん主演ドラマで学生から社会人時代を過ごしてきたので、女優・篠原涼子のイメージは確立していますね。日テレ系ドラマでは『光とともに…〜自閉症児を抱えて〜』『anego[アネゴ]』『ハケンの品格』、フジテレビ系ドラマでも『アンフェア』『ラスト♡シンデレラ』など、主演常連という感じです。

私:篠原さんがすごいのは、主演ではない脇役時代に「演技でいける」と自信がついて楽しくなったところから、積極的に仕事の幅を広げて、結果を出して行ったところですよね。2001年の蜷川ハムレットで初の舞台出演をして、いよいよ役者として芝居に目覚めて。そう、篠原さんって「女優」という感じじゃなくて、役者さんなんですよ。

Y子:ウェットな色香とか、いちいちドラマティックな「オンナ」性とか、そういうのを普段から醸し出したりしないですよね。

私:そうそう、もっと体育会系というか。発注に対して職業人として的確に演技を返していく「役者」でありつつ、必要とあらば主演として大きな華を咲かせる「女優」にもなれる。

Y子:その信頼を考えれば、そりゃあ数々のドラマからオファーが来ますよね。

私:それから篠原さんって、こんなに出演作も多くて人気があるのに、敵を作らないですよね。たぶんね、理由の一つはファニーフェイスだからじゃないかと思うんです。それって役者さんとして最高の才能ですよ。演技力次第でどんな役でもできるし、だから「絶世の美女」にも演技でなれる。もう一つの理由は、エゴを感じさせないフラットなキャラクターのおかげじゃないかな。

それに、自分の演技論みたいなことをペラペラ語らない。あれだけのキャリアがあるんですから、篠原さんにだって演技論や自負がないわけはないと思うんですけれど、そういうのを表に出さずに、あくまで演技だけで結果を出していく。ひょっとするとパートナーの市村正親さんから役者として素晴らしい影響を受けているからかもしれないですね。

Y子:篠原さんは、自前の敏捷さで、アイドルから歌手へ。さらに、女優から役者になったのだ、と。

私:そう、主役を張り続けられる実力を持つ役者さんは、エゴを語らずに実績で語るのかもしれません。

TKブランドを脱ぎ捨てて生き残った人

昨年の安室奈美恵の引退宣言と、この1月の小室哲哉の引退劇で、世間は90年代を鮮烈に思い出した。そして90年代が懐しく語り直されるにつれて、TKブランドをまだ背負っている人たちの存在も浮き彫りになった。TKの名は大きかった。なによりも、TK自身が90年代のTKブランドで生きてきたと、そう語った。

だけど篠原涼子はTKブランドを必要とせずに生き残り、別の分野で自分の居場所を作って、大成功を収めた。しかもその間、「足を引っ張られなかった」うえに、作品にも恵まれ続けた。いわゆる失われた20年のど真ん中で芸能生活を送ってきた彼女は、ロスジェネの代表的な存在でありながら、しかもそれをことさら大声で人に言うでもなく、視聴者の共感を集めるようなテーマで忠実に「演技を返してきた」からだ。

不遇な時代に社会人となった不満や葛藤やルサンチマンの中でもがくうちに中年となってしまった「大人子供」の自分の姿を見て愕然とするロスジェネがたくさんいる中で、篠原涼子は「清潔で信頼のおける、実力派の女性人材」であり続けたのだと思う。本人はそんな意識などしていなかったのかもしれないけれど、たぶんそのエゴのなさがまた良かったのだ。

篠原涼子が理想の上司として選ばれるのは、90年代の歌手としての成功がありながら、そして大ヒット作で主演を張り続けながら、エゴに飲まれず前進と更新を続けるユーモアと清潔さと信頼があったから。「発信」しなければ存在しないも同然との強迫観念にドライブされた現代では、エゴは諸刃の剣だ。看板を何度手放しても人に信頼されるのは、汚れたエゴに飲まれずに前進できる人材。その原則は、男性であろうと女性であろうと、ロスジェネだろうとどの世代だろうと、普遍的に言えることなんじゃないかと感じている。

(河崎 環)

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あの女性(ひと)なら、頭の固い上司にガツンと言ってくれたり、優しく悩み相談に乗ってくれたり、時にはライバルとして切磋琢磨しあったりするのかも。ワクワクするような想像を、コラムニストの河崎環さんが鋭い視点で分析していく連載エッセイ。

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