「30代になると日頃の行いが顔に出る」は本当か?【小島慶子のパイな人生】

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「30代になると日頃の行いが顔に出る」は本当か?【小島慶子のパイな人生】

「「πな人生を生きていく。」」
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恋のこと、仕事のこと、家族のこと、友達のこと……オンナの人生って結局、 割り切れないことばかり。3.14159265……と永遠に割り切れない円周率(π)みたいな人生を生き抜く術を、エッセイストの小島慶子さんに教えていただきます。

第5回は、「顔」について。オトナとしていろいろな経験を積んでいくと、その経験が「顔」に出るとよく言いますが、それってホントなのでしょうか。

自分が鏡を覗き込んでいる姿

作家・宇野千代さんが、確かこんなことを書いていたように記憶しています。若い子やおばあちゃんが鏡を覗き込んでお化粧しているのは可愛いけれど、中年女が鏡を覗くときの顔は怖い、と。正確な表現は覚えていないのですが、これは本当だな、と思います。

と書いている私の右頬は、コブ取りじいさんのように腫れて、青あざができています。殴られたんじゃありません。奥歯のインプラントの手術を受けたんです。術後1週間は腫れる上、2週間ぐらいは内出血が残るらしいんですが、腫れのピークの3日目にテレビの収録がありました。

しょうがないから「今日は顔が腫れてますよー」と言いながら収録しました。すると現場のみなさんは「いや、言うほど腫れてない」と仰るではありませんか。いやいや、ティッシュ詰めたみたいになってるがな。要するに、他人から見た印象では、腫れている右頬と、いつも通りの左頬は、大差ないということなんですね。45歳の輪郭ってそんなもんなんですよ。

「仕事はサボっても手入れはサボるな」

この前、ふと自分の顔の皮を両手で頭の方向に引っ張ってみたら、たるみが消えて20代の頃みたいになりました。そこで高1の息子に見せて「手術でこうやってリフトしたらどうだろう?」と聞いたら「なんのために?」と言われました。「なんで45歳で20代に戻る必要があるの。意味わかんない」と。仰る通りです。戻る理由がない。テレビに笑いジワが映ったとて、失うものもなし。

と書くとまるで私がまるきり自然志向のナチュラル加齢主義のように聞こえるかもしれませんが、シミ取りレーザーやらフォトフェイシャルやらハイフやらサーマクールやら、美容皮膚科の施術もしてますよ。ただ、針でなんかを入れたりメスで切ったりするのが怖すぎるので、コラーゲンやボトックスの注射とか皮引っ張るやつはしてないだけです。それに写真の仕上がりを見て、読者が記事よりも私のシワを数える方に気を取られてしまいそうな時は、フォトショップで目元の細かいシワを消してもらってますし。

なぜマメに手入れをするかというと理由が二つあります。一つは、化粧が面倒くさいから。手入れしておけば、日焼け止めとディオールのドリームスキンを塗ったらマスカラだけで人に会えます。顔洗うのも簡単だし、最悪そのまま寝てもいいし。二つ目は、「仕事はサボっても手入れはサボるな」という、会社員の時からお世話になった大恩人の遺言を守っているからです。

それでも、老けるもんは老けるんです。生きてるんだからしょうがないですよね。

20代、30代の顔に戻りたいか?

この頃は中年になった元アイドルなどに「劣化した」とか言う輩がいるけど、愚かな物言いです。生きるということは、昨日と同じではいられないということ。人前に出る女の容色をあげつらっているどこぞのナニサマの脳細胞も腸の絨毛(じゅうもう)も、同じように日々老いているのです。僕らはみんな、生きているから老いるんです。2025年には人口の3割が65歳以上になるのですから、これからは老いているのがデフォルトなんですよ。そもそも自分の顔をどうしようが、他人にどうこう言われる筋合いはないし。

ただ、人相には普段の行いが出るものです。あれは30代半ば頃だったでしょうか、ふと同世代の仲間の顔つきが変わっているのに気づきました。意地悪な人は意地悪な顔に、ずるい人はずるい顔に、理知的な人は理知的な顔になっていたのです。天真爛漫女子だった人が性悪女の顔になり、地味なオタクと軽んじられていた男性が素敵なパパになっていました。人気者のチャラ男はゲスいオヤジに。若さのフィルターが外れて地が出たのですね。30代前半までに散々人の悪口を言ったり足を引いたりした人は覚悟しておきましょう。

かくいう自分はどうだったかというと、30歳で出産した直後は人生でも最も輝いていたかもしれません。でもそのあと仕事との両立にいっぱいいっぱいになり、夫と気持ちがすれ違い、実家の家族との関係に悩んでカウンセリングを受け、そんな中で息子にきょうだいがいたらいいかもと第二子を妊娠、出産するも産後の体力消耗と仕事復帰の心配で脳がパンクして、不安障害を発症。

治療を受けながら仕事復帰して症状は落ち着くも、その後もワクチンを打っていたにも関わらず息子と一緒に水疱瘡になったり、りんご病をもらったり、一家でロタになったりインフルリレーをしたり、もう思い出すのも辛い毎日でした。

顎にしつこい吹き出物が出て、シミが濃くなって、一気に小じわが出現して、鏡を見るのが憂鬱だったなあ。もう二度と30代には戻りたくないし、その前の20代にも戻りたくない。あの頃は、自己嫌悪が強すぎて、過食嘔吐の毎日だったから。顔がパンパンに膨らんでいたのは、食べては吐くのを繰り返していたためです。誰にも言えなかったし、それが摂食障害という病気だなんて知りませんでした。

美とは、誰かを無心に見つめる眼差し

で、ようやく凪(なぎ)の40代が訪れて、苦難を乗り切った自分を褒めてやりたいと思ったところへ、夫が仕事を辞めて片働き人生の始まりですよ。男選びが間違っていたんじゃないか?という気もしますが、おかげでやけっぱちで一家で豪州に引っ越したりと冒険もできたので、他人の人生に巻き込まれてみるのも悪くないものです。

目下、顔の問題で最大の懸念事項は紫外線。せっかくきれいなインド洋が目の前にあるのに海に入らないなんてもったい。澄んだ波に洗われて七色の青を眺めていると、身も心も透き通っていくようです。だから、豪州で思い切り泳いでは、日本に戻るたびにレーザーでシミの芽を摘んでいます。

つい先日、東京ミッドタウンできれいな人を見かけました。50代半ばくらいでしょうか、黒髪のショートカットに化粧気のない肌。傍の男性を見上げて、それは幸せそうに笑っていました。すれ違うときに一瞬見ただけの横顔が、忘れられません。私はこれまであんな風に、誰かを見つめたことがあっただろうか。

もしも誰かを無心に見つめる眼差しがその人の美を表すのだとしたら、私が一番いい顔をしているのは、息子たちを見ているときだろうと思います。原稿で徹夜したクマだらけの顔でも、締め切りに追われて2日も風呂に入っていないテカテカの顔でも、そこには私のよろこびが表れているはずです。

幾つであっても、夢中で見つめたいものがあれば、きれいでいられるのでしょう。鏡を覗くよりも、海に行こう。好きな人に会いに行こう。それが答えなのかも。 

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「πな人生を生きていく。」

オンナの人生って結局、割り切れないことばかり。スパッと決断したり解決したりできない自分はダメ人間かも……と落ち込んでいないで、「π(パイ)な人生」を生きる術を身につけよう。小島慶子さんがアラサー世代に贈るエッセイ。

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