通訳者に聞く仕事術・第3回

反省は「良かったこと」も振り返る 通訳のプロ聞く、失敗を引きずらない方法

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反省は「良かったこと」も振り返る 通訳のプロ聞く、失敗を引きずらない方法

「同時通訳者」と言うとどんな仕事を思い浮かべるでしょうか? 真っ先に海外ニュースの通訳や、取材やインタビューでの通訳が頭に浮かびますが、そのほかにも国際会議の同時通訳や企業の株主総会、記者会見、翻訳や執筆など「通訳」が発生するありとあらゆる場所に仕事が発生するそう。

毎日が「本番」でありとあらゆる現場をこなす同時通訳者の仕事にはきっと私たちの仕事にも役立つヒントもあるにちがいない……というわけで、インプット術やタスクの整理方法、時間の使い方などの仕事術を聞きます。

お話を聞くのは、通訳・翻訳サービスを提供する「テンナイン・コミュニケーション」所属の通訳者で、現在は「CNNj」「CBSイブニングニュース」などで放送通訳者として活躍中の柴原早苗(しばはら・さなえ)さんです。第3回目のテーマは「失敗を引きずらないコツ」です。

【1回目】「資料をじっくり読まない」インプット術
【2回目】仕事は苦手なことから取り掛かったほうがいい理由

失敗を引きずらないコツは?

——同時通訳の仕事は、毎回が本番ですよね。失敗したからといって、気持ちの切り替えも大事なのかなと思うんですが、私は失敗を引きずるタイプで。失敗を引きずっていても他の仕事に支障も出るし、いいことはないとわかっているんですが……。。柴原さんはどうやって気持ちを切り替えているんですか?

柴原早苗(以下、柴原):私も引きずりますし、悩むほうです。若い頃は本当に悩むタイプだったんです。今でも「あの文はこういうふうに訳せば良かったかな」「あそこでもう少し間を取ったほうが良かったかな」と、仕事が終わってから最寄り駅までの帰りの電車の中で1人反省会もします。

けれども、この仕事をずっと続けてきて、しかも今は家族がいますので、駅を降りると「今日のおかずは何にしよう?」と頭が切り替わっているんです。「帰ったらお皿拭かないと……」などと思いますね(笑)。

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——それは家族がいるから?

柴原:そうですね。失敗を忘れてしまわないと家の運営ができないというのはありますね。確かに実家暮らしのときは帰ってから母を相手に、ダラダラと愚痴を言うというのはありましたね(笑)。

ある意味、自分のライフステージが変わったということと、日々のそのほかの予定が入っているから「もうスポーツクラブに行く時間だ」といった考えが浮かぶと、そこで気持ちが切り替えられます。そういう意味では忙しいのが助かってるかもしれないですね。

——今、やることがあるからそこに集中するってことなのかな。

柴原:それはありますね。

反省は「よかったこと」もノートに書き出す

柴原:それでもどうにもならない時はノートに書き出します。自分が失敗して、もう目も当てられない、ということがあったときに「なぜ、それが起きたのか?」「自分がそれに対してどう思ったのか?」「再発防止策として何ができるか?」ということをひたすら書きます。

ただ、それと同時に「でもまあ自分はここを頑張ったのだから」という意味で、自分をあえて「上げる」ようなことも書きますね。赤ペン先生ではないですが、自分でひたすら書いていって、でも自分も頑張ったということもしてますね。

柴原さんの反省メモの一部。

柴原さんの反省メモの一部。

——反省ばかりでは落ち込んじゃいますもんね。この方法は独自に編み出したやり方なんですか?

柴原:近所のカフェで「現状への辛さ」をひたすら書いていたときだったんです。「ここまで自分のことを嫌になったのであれば、ちょっと別の視点で書いてみようかな?」と思い、赤ペンを入れ始めたのがきっかけですね。そうでないと人生やっていられないという部分もありますよね。自分いじめをして終わってしまえば浮かばれません。

——確かにそうですね。自分を必要以上に責めたり、いじめたりしても仕方ないですもんね。それで満足をしてしまうことだってある。しつこいですが、柴原さんでも「今日の通訳失敗だったな」とかあるんですか?

柴原:あります! あります! ボキャブラリーが全然出てこなくて、同じような表現をずっと使ってしまい、終わってから「最適の訳語はこれだった!」ということもあります。

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——そうなんですね。私もインタビューの書き起こしをしている時に「なぜこういう切り返ししてないのかな?」とか、「なぜこ突っ込まなかったのかな?」と反省することがしょっちゅうです。

柴原:CNNのニュースの放送通訳をしていた時に、医学用語が出てくる医学のニュースがあったんですね。ただ、医学用語は勉強していない限りわからないんです。

ラテン語やギリシャ語の語源の単語はお手上げです。しかも、その単語を通訳できないとニュースとして通じません。ただ、映像を見ていると、何かお腹のあたりの手術をしてるシーンが映っていましたので「この腹部の病気では〜」という具合でとりあえず訳しました。

その一方で、耳で聞いた単語はこのスペルに違いないと想像しつつ辞書で引きながら、放送の同時通訳をしていきました。そして、最後にその単語が「腹膜炎」であるとわかったんです。それで何事もなかったかのように「以上、腹膜炎のニュースでした」と言い、滑り込みセーフで終わったこともありました。

もちろん、そんなにうまくいくことばかりではないので、単語がわからないまま終わったときは、オンエアが終わってじっくり調べ直します。次に出てきたらこれはきちんと忘れないで訳そうと思います。目で見て、耳で聞いて、口でしゃべりつつ、手で辞書を引く感じですよね。

——次回は、「同時通訳者として気をつけていること」を聞きます。

(取材・文:Duniakita編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)

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