『大家さんと僕』インタビュー・後編

生きてきた時代も世界も違うから楽でいられる カラテカ・矢部さんに聞く「僕の幸せ」

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生きてきた時代も世界も違うから楽でいられる カラテカ・矢部さんに聞く「僕の幸せ」

「友人」や「恋人」といった分かりやすい関係ではないけれど、お互いにとても大事でかけがえのない存在……そんな不思議な関係を描いたマンガ『大家さんと僕』(新潮社)が10月31日に発売されました。

著者はお笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎さん。矢部さんが8年間、間借りをしているという87歳の大家さんとの日々をつづっています。

矢部さんに前後編にわたって話を聞きました。

【前編は】恋人でも家族でもないけれど…説明しづらさの中で見つけた「幸せ」

「カラテカ」の矢部太郎さん

「カラテカ」の矢部太郎さん

生きてきた時代も世界も違うから

——マンガにもありましたが、最初は大家さんとひとつ屋根の下に暮らす生活に戸惑いもあったそうですね。

矢部太郎(以下、矢部):そうですね、部屋を契約するときに「大家さんに何かあったらよろしくお願いします」って不動産屋さんに言われてたんですが、引っ越したら早速、電話がかかってきて「雨が降ってきたから洗濯物を取り込んだほうがいいですよ」って。逆に僕が世話を焼いていただいています。お茶に何度も誘われたり。

始めは戸惑ってあまり関わらないように断っていたんですが、あまりにも誘われるから1回くらいはいいかなと思ってお茶に行ったら面白かったんです。それからですね、大家さんとの交流が始まったのは。

大家さんの家の応接間に入ったらあまりにも住む世界が違うなと思って驚きました。絵がたくさん飾ってあったんですが、話の糸口もつかめなくて。本があったので「読書の話でコミュニケーションを取ろう!」と思って手に取ったら『<華族爵位>請願人名辞典』っていう本で……。

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——爵位?貴族ってことですか?

矢部:爵位を欲しいって請願した人の辞典らしいです。爵位をもらえなかった人はもらえなかった理由が書いてあるんです。一言も出ないままそっと閉じました。

——夏目漱石の『坊ちゃん』とかじゃないんだ。

矢部:もちろん部屋には文学全集とかあるんですが、僕が来るまでその本を読んでいらしたようで……。

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——今ではもうすっかり大家さんと仲良く……。

矢部:はい。同世代の女性より大家さんと話しているほうが楽です。同世代の女性は緊張しちゃうし、意識しちゃうんです。よく思われたいって。大家さんにはそんなふうに思わないし、僕のことも芸人ってわかってないし、お笑いのことも一切話さないから楽ですね。

——仕事のことを話さないんですね。大家さんとはどんな話をするんですか?

矢部:大家さんが好きな羽生結弦君の話とか……。僕は、大家さんから昔の話を聞くのが好きです。二・二六事件の話とか昔は近くの川に蛍が飛んでいたという話とか……。

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——へえー、同世代の人とは絶対にしない話ですね。

矢部:大家さんと暮らす前は、ずっと一人暮らしをしていたんですが、誰もいなくて自由にできることがいいなって思っていたんです。その頃の僕が今の僕の生活を見たら絶対「煩わしいな」って思うと思う。

でも今は大家さんのお陰で近所の人との交流もあるし、大家さんから「荷物を下ろしてくださる?」とかいろいろ頼まれたりすることもあるんですが、頼りにされているなあっていうのが、必要とされるっていうのがこんなにも嬉しいものなんだなって思いました。

『大家さんと僕』より

『大家さんと僕』より

利害関係がないからこそ話せる

——血はつながっていなくても「家族」のようなものなんでしょうか?

矢部:一緒に住んでいるから家族みたいなものなんでしょうけれど、「家族」と言うとちょっと違う。何か新しい言葉があったらいいですよね。

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——世間では結婚しない若者やこれからますます高齢者社会になっていくことが「問題」として扱われることもあります。でも、“ぼっち”同士の人がつながって協力して生きていけばいいのかな?という気もするんです。シェアハウスのような……。

矢部:そうですね。大家さんももともとは家族で住んでいたらしく、家も二世帯、三世帯という感じの部屋なんです。ご家族が亡くなってなくなって空きになって寂しいから貸しに出したらしいですが、いなくなった家族の隙間を埋めるような気持ちだったのかもしれないですね。一人だと怖いし誰かいたほうが安心ですし。

ちなみに、僕は(俳優の)木下ほうかさんに「将来、互いに一人だったら一緒の老人ホームに入ろうな」って誘われているんですが、それは避けたいなって思ってます(笑)。

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——先ほど「大家さんとは仕事の話をしない」とおっしゃっていましたが、そういう利害関係から離れた関係はいいなあと思います。働いていると気が付けばリアルもSNSも利害関係ばかり、という状況も多いのかなって。

矢部:マンガを描き上げて思ったことなんですが、大家さんとは生きてきた時代も住んでいる世界もまったく違うから、大家さんと話していると仕事から離れられるんですよね。

——いいなあ。完全にオフなんですね。

矢部:大家さんも他の人とは話していないことを話してくれているみたいで、親戚の方からも「そんなことあったの?知らなかった?」と言われたんです。「おばちゃんがマッカーサーを好きなことなんて知らなかったよ」って(笑)。

——そんな出会いもあるんですね。

矢部:はい。まあだからといって無理して「出会おう」としなくていいと思うんですけれどね。自分は(相方の)入江君と違って合コンに行きまくるような社交的な性格じゃないけれど、出会った人の中から気の合う人を見つけて付き合っていけばいいんじゃないかなってことも描きたかったことのうちの一つだと、今は思います。

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——そうですね。気が付いたら世間が思う「幸せ」に振り回されてしまっていて、自分はこれが幸せなんだっていうのをわかっている人ってもしかしたら少ないのかもしれない。

矢部:僕は、タバコを吸わないしお酒も飲まないし、女遊びもしないしギャンブルもしないし、芸人の人から「生きてて何が楽しいの?」って言われるんです。

この前も(「品川庄司」の)品川さんに「最近幸せって思ったことは?」って聞かれて「お風呂でお湯をためながら本を読んでたら、ちょうど一章を読み終わった時にお湯がぴったりたまってて幸せだった」って話をしたら「何してんだ?」って言われたんですけれど……。まあそれでいいかなって。そんな感じですね。

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(聞き手:Duniakita編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)

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