『レタスクラブ』松田紀子編集長インタビュー第2回

「正しさ」を押し付けられても辛いだけ。『レタスクラブ』が読者の“共感”を大事にする理由

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「正しさ」を押し付けられても辛いだけ。『レタスクラブ』が読者の“共感”を大事にする理由

料理のレシピといえば、最近は「クックパッド」などのレシピ検索サイトで手軽にレシピをチャチャッと調べて……という人も少なくなくでしょう。

わざわざ雑誌や本を買わなくてもレシピが簡単に調べられる現代。しかし、今年で創刊30周年を迎える料理雑誌『レタスクラブ』(KADOKAWA)は出版不況と言われている時代に、3月25日発売のプレ月刊号(4月号)から3号連続で完売と、読者の支持を集めています。

一時期は「瀕死の状態だった」という同誌が“再生”した理由は? 3回にわたって松田紀子編集長に話を聞きます。前回は、編集部のチーム改革について聞きました。今回は、雑誌コンテンツをどう見直していったかについて聞きます。

松田紀子編集長

松田紀子編集長

「モデルルームのカタログみたいな雑誌だね…」

——『レタスクラブ』再生の理由にはチーム改革とコンテンツ改革があるということですが、今回は、1年前に松田さんが編集長に就任して、コンテンツをどう見直していったのかをお聞きしたいと思います。

松田紀子編集長(以下、松田):『レタスクラブ』はちょうど30年前の1987年に創刊されたんですが、創刊当時の『レタスクラブ』ってすごく面白いんです。特に90年代は雑誌全盛期でとても自由な感じがする。中には「これ、大丈夫なの?」っていう表現もあるんだけれど……(笑)

でも、年数を重ねるごとに内容がだんだん真面目になっていくんです。料理は火を扱うから分量間違えると事故の原因になっちゃうので、その部分に対して真剣であらねばというのは最もだし、当然そうあるべきだと思うんですが……。ただ、それを意識しすぎるあまりに「正しさ」を追求する雑誌になっちゃったんですね。

——なるほど。そうだったんですね。

松田:それまでの『レタスクラブ』が扱うジャンルは、料理が7〜8割、整理整頓や掃除が1割、美容やお金が1割という内容だったんです。

ある時、「外部の人から『レタスクラブ』ってモデルルームのカタログみたいだねって言われたことがあった」、という話をメンバーから聞いたんです。それってつまり、つまんないってことだよね? キレイだけれどそっけなくて愛嬌がない、感情がないってことだよねって。それはいかん、ということで、てこ入れをすることになりました。

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「正しさよりも楽しさ」を追求

——どんなふうにてこ入れをしていったんですか?

松田:雑誌を買ってもらうためには読者の共感が大事だなと思い、雑誌はとことん読者の共感を得るためのコンテンツというのを柱にしました。

『レタスクラブ』はウェブ版で「レタスクラブニュース」というサイトを運営しているんですが、デイリーのニュースはウェブで見てもらおうと。

——脱カタログ化ということですね。

松田:はい。前回もお話した通り、私は15年間コミックエッセイの編集をやってきたんですが、コミックエッセイはいわば共感しか扱っていないジャンルなんです。共感性があるかないかだけで編集をして早15年。だから「共感は任せなさい」って感じだったんです(笑)。まずはコミックエッセイをガンガン投入しました。

——『レタスクラブ』はもちろん知っていたんですが、今回取材をするということで改めて読んだらコミックエッセイがたくさん掲載されていて驚きました。「料理雑誌なのにマンガがたくさん載っている!」って。

松田:コミックエッセイは共感ができるかどうかがキモで、共感性が強ければ無名の新人さんでも売れるし、どんなベテランでも共感性が低かったら売れない。そういうジャンルなんです。共感できるコンテンツを中心的に入れました。でも、「料理で共感」「掃除で共感」って難しいんですよね。

——うーん、そうですね。料理で共感……かあ。

松田:でも、よく考えると料理って、作るのは人間なわけだから主役は素材である「胸肉」ではなくて「人間」なんですよね。読者としては毎日ヘトヘトになっている中で、「正しい作り方」を押し付けられても辛いだけなんですね。

だから「辛い」ということをちゃんと言おうと、読者を助けるものにしようと思ったんです。レシピを考案するのはプロの料理家さんなんですが、企画が決まったら「この工程をひとつ省くと楽になるよ」というのを考えてもらって、とにかく少しでも楽にできるよう一つ一つのメニューを作っていきました。

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『レタスクラブ』にイクメンが登場しない理由

——読者層は主婦が中心ですか?

松田:そうですね、30、40代の主婦で働いている方が多いですね。

——「楽になろう」ということであれば「イクメン」に代表されるような家事や子育てに積極的な夫も登場させるという手もあると思いますが……。

松田:世間を見渡すと「男性が育児するのは当たり前だよね」という風潮なんですが、リアルな読者を見るとそうでもないんです。そこに「イクメン」とか言って、夫が一生懸命家事している姿を見せてもイラッとさせちゃうだけ。読者からしたら「あなたはいい旦那さんがいていいわね。でもうちはちがう」で終わっちゃうんです。

——あ、確かに。共感されにくいってことなんでしょうか?

松田:そうですね。個人的には、本当は男性の育児やお掃除特集をやりたいけれど、企画の切り口を注意しないと読者が離れちゃうんですよね。夫に頼れないという事情もあるけれど、夫に任せたくないという読者も多い。夫に家事をやってもらうことに罪悪感を持っちゃう。そう思っている読者に「夫と家事を分担しましょう」って言っても、見つめている景色が変わってきちゃうので共感から離れてしまうと思うんです。

——なるほど。世間では「家事をする夫が当たり前だからそういう男性を取り上げようぜ!」っていうわけにはいかないんですね。

松田:そう、読者の共感がすべてです。なので、読者のニーズを捉え直そうということで編集メンバーがお宅に行って根掘り葉掘り料理のことや生活上の悩みを聞いて写真を撮らせてもらうということを数ヶ月に1回ずつやっています。取材に追われていると読者が見えなくなってくるんですよね。

例えば、編集側は「この料理には胸肉がいいのか、それともモモ肉がいいのか」について真剣に議論しているんだけれど、胸肉でもモモ肉でも安ければどっちでもいいよって思っている主婦の方って多い(笑)。

あとは、ママ友のラインで「片付けはどうやっているの?」って聞くとみんな一斉に答えてくれる。自分の家がどんな感じかを包み隠さず教えてくれたり、細かい悩みや問題を教えてくれたりするんです。

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——徹底した読者主義なんですね。

松田:はい。読者が抱える料理や生活上の悩みに全力で寄り添っていきたいと思います。それが結局は信頼や共感につながるんじゃないかなと思っています。

『レタスクラブ』は読者にとって「気の置けない友人」のような存在になればと思います。しばらく会わなくても平気だけれど、たまに会うと「おお〜!」と盛り上がるような……。否定もしないし責めたりもしない。そこにあるのは共感だけという、そういう雑誌になれば本望ですね。

次回は7月31日公開です。

(取材・文:Duniakita編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)

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