「産むこと」にメリットって、本当にあるんですか? 第12回

空気に流されて、うっかり産むな。トコトン戦略的に産んだ方がいい理由

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空気に流されて、うっかり産むな。トコトン戦略的に産んだ方がいい理由

「産むことにメリットって、本当にあるんですか?」
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「編集長、産むことのメリットとデメリットを教えてください」今年で33歳になるワーカホリックなプロデューサーに、ワーママ編集長(私)が詰め寄られたことからスタートした本企画。今回は「妊娠期間」について考えてみたいと思います。

これまでのテーマは、ほとんどが「産んでから」の話でした。でも、考えてみれば「産むまで」も、いろいろと思うところがあったよなあ、と連載の最終回(一応全15回を予定しています)が見えてきた頃になって気がつきました。

私(左)と海野P(右)

私(左)と海野P(右)

妊婦さんは「サナギ」に似ている

妊娠というものを経験して以来、一つの特殊能力が身につきました。

それは、かなり初期の段階から他人の妊娠に気づくようになったこと。極端な場合だと、本人が気づく前に「ひょっとして……」と直感が働き、あとから報告を受けて「やっぱり……」と思うこともあります。

「あ、この人、妊娠してる」

そう直感する時、私が何を感じ取っているのか?

普段より「肌が荒れてる」「眠そう」「疲れてる」「顔の脂が浮いてる」「鼻の下の産毛が濃い」「むくんでる」などなど、いろんな微細な変化を察知して、総合的に「あ、この人、妊娠してる」と私の脳は直感している部分もあると思いますが、たいていの妊婦さんは、ある共通した雰囲気をまとっています。

その雰囲気とは、「心ここにあらず」の雰囲気です。

なんか、みんな、サナギみたいなんです。死んでるわけじゃないけど、生きてるわけでもない。一種の仮死状態のような。何か一つの目的のために、自分を無にして内向きにこもっている。どことなく、うつろで存在全体がフワフワしている。

かつて自分もまとっていたであろう、その雰囲気を私は今も敏感に嗅ぎつけてしまうのでしょう。

「自分は人間ではない、子宮なんだ」

ちなみに私は妊娠中、人間であることを諦めていました。

「自分は人間ではない、子宮なんだ」と思うようにしていました。

十月十日、私は子宮という袋で、たまたま手足があって、食べたり、歩いたり、寝たりしているだけなんだ。子宮なんだから、やるべきことは一つだけなんだ。宿主として、この、どんどん大きくなって、膝やら肘やらで昼夜関係なく蹴り飛ばしてくる何者かを、無事に肺呼吸と陸上生活ができるようになるまで培養するだけでいいんだ。それ以外のことは何も求められてはいないんだ。だって、頭のてっぺんから爪先まで、私は徹頭徹尾、子宮以外の何者でもないんだから。

というか、そうとでも思わなければ、やり過ごせなかったんです。

あの、不自由すぎる生活を。

妊娠期間がいかに不自由かについては、たくさんの方が経験談を書かれているので、もうこれ以上は不要かと思いますが、仮に海野Pが妊娠した場合に、耐えがたく感じるであろう不自由を列挙させていただくと、次のようになります。

・酒が飲めない。
(ま、これが最大の不自由でしょう)
・レッドブルが飲めない。
(あれ、カフェイン入ってます)
・頭の回転が鈍くなりすぎて、麻雀ができない。
(できなくはないと思うけど、今よりさらに負ける回数は増えます)
・集中力がなさすぎて契約書が読めない。
・論理的構成力が低下してプレゼン用のパワポが作れない。
・抽象的思考力も低下してスプレッドシートでミスりまくる。
・眠すぎて企画会議に集中できない。
・誰と誰が仲悪くて……みたいな複雑な人間関係図を管理できなくなる。

と、なります。

要は、知的活動が著しく制限されるんです。仕事にならないんです。個人差はあると思いますが、少なくとも私のまわりのワーママ編集者のあいだでは、次に書くことは、妊娠中のあるあるです。

妊娠中もバリバリ仕事はできるのか?

私は出産後ウェブメディアの世界に転身しましたが、妊娠中は過去にも書いたようにある出版社で書籍の編集者をしていました。書籍編集の仕事は「企画を考える」「原稿を整理する」「ゲラを読む」といった作業が中心ですが、どの作業も妊娠中のとろけた脳みそとは、ことごとく相性が悪いのです。

たとえば、ある本の中で、「わたし」を「私」と漢字で統一しようと決めても、原稿を1章分読んでいるうちに、どちらに統一したか忘れてしまいます。こんな超初歩的なことさえ難儀するありさまですから、「最終章のエピソードを、プロローグに移動させよう」みたいな、全体を俯瞰した論理的思考は、「ああ、なんか、私、前世にはこういう高度なこともできたんだったかなあ……???」と懐かしく感じられるほど、絶望的にできないのでした。

唯一の救いといえば、「なんで、こんなこともできないんだ!?」と自分に腹が立つこともない点でしょうか。もう脳みそ全体がアホになっているので、それをこなせたかつての自分も、半分忘れてしまうんです。

まあ、とにかく頭が不自由すぎて(身体も何かと不自由なんですが)、「自分は人間ではない、子宮なんだ」とでも思わなければ、やり過ごせませんでした。ちなみに、思考力・記憶力・集中力が恐ろしく低下するこのアホモードは、産後半年を過ぎるまで続きました。

“2人目ハラスメント”から逃げる

前回、産むことでカラダは醜くなるという、女性に産ませたい人たちが隠してきた、不都合な真実を暴露してしまいました。

妊娠中が不自由すぎる(特に頭が!)というのも、「妊娠期間=希望に満ちた幸せな時間」というイメージを売り出したい一派にとっては、不都合な真実なのかもしれません。

頭がアホになって、1年近くも仕事にならないなんて、正直たまったもんじゃありません。私が一人目で打ち止めにすると早々に決めたのも、仕事がこんなに楽しくて仕方ないのに、ここでまた、あの十月十日のアホモードに突入するのは絶対にカンベン!と思うからなのでした。キャリア上でがんばり時の今、ふたたび頭と体をジャックされるのは、困ります。

「長い人生なんだから、1年くらいいいじゃない。すぐよ、すぐ」

という声も聞こえてきます(特に年配の方から)。

いやいやいやいや、もう騙されませんよ(笑)。私は、今とにかく仕事がしたいんです。1人目を産むと、「次はいつにするの?」という有言無言の“2人目ハラスメント”に晒されますが、誰に何を言われようが、うっかり妊娠しちゃったりしませんから。ワーカホリックな海野Pに負けないくらい、私も仕事が大好きですから。

空気に流されて、うっかり産むな

この回で結局のところ、何が言いたいかといえば、

「もっと、自分のキャリアを大事にしようよ」

ってことです。

妊娠中は仕事にならない。産んでからも、大変(とりあえず、2年が経過してもまだ大変です)。そうなると、最低3年は仕事で全力を出せないわけですから、「いつ産むか」は、自衛のためにとても大事な問題になってきます。

「できた時が、タイミング」という(これまた年配の方からよく聞かれる)牧歌的なパースペクティブでも、まあ、なんとかなるとは思いますが、失うものはいっぱいあります。人間には、自分の選択によって何か問題が生じても、「まあ、仕方がない」と現実を甘受してしまう性質がありますから、決定的に後悔することはあまりないかもしれませんが。

空気に流されて、うっかり産んで、うっかりキャリアを手放さない。

伝えたいのは、ただ、それだけです。

でも、今の日本で産むと、うっかりキャリアを手放しかねない状況に簡単に追い込まれてしまいます。そうならないためには、産むなら、徹底的に計画して潰せるリスクは確実に潰して、利用できるものは、会社でも上司でも同僚でも義理の家族でも民間サービスでも、なんでも使い倒して自分の身は自分で守るしかないだろう、という結論しか出てきません。

産むなら、とことん狡猾に

要は、産むなら、狡猾に産もう、と。

「今、他に特にやりたいことないし、ヒマだから産もう」くらいがちょうどいいかもしれません。仕事を続けていると、どこかで必ず(会社や上司には言えないけど)「ここ、がんばりどころじゃないよな……」という時期、ありますよね。「キャリアのおどり場」というのでしょうか。そのあたりで、ポコッと産むのがよろしいのかな、と。

まわりが産み始めたからとか、30歳になったからとか、まわりに流されてなんとなく産むなんて、もったいなさすぎる。もっと知略の限りを尽くして、狡猾にタイミングを見きわめる。今の日本(っていうか、東京か……)でキャリアを守り抜くには、そのくらいのことをしないと、たぶん、無理です。

仕事で全力を出せる時期、全力を出して成果が出せるポジションと能力がある時期って、かなり限られていると思うんです。Duniakitaを立ち上げて3年目、脂が乗りに乗っている海野Pには、その時間を大事にしてほしいなあ、と思うんです。30代も半ばにさしかかって、「産む?産まない?」とそわそわし始めるのは、わかるけどさっ。

(Duniakita編集長・鈴木円香)

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