不妊治療患者支援NPO理事長・松本亜樹子さんインタビュー 第3回

92%が「不妊治療と仕事の両立は困難」 辞めずに続けるコツとは?

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92%が「不妊治療と仕事の両立は困難」 辞めずに続けるコツとは?

不妊治療を受ける女性のほとんどがぶつかる「仕事と治療の両立」の壁。治療を受けている中心層は、30、40代の女性で、仕事で責任のあるポジションについている人も少なくない。先の見えない不妊治療のために、キャリアの階段を「下りる」決断はそう簡単にはできるわけがない。さらに、高額な不妊治療の費用を捻出するには、仕事をやめるわけにはいかないという現実も……。様々なジレンマを抱えながら、「仕事か、治療か」で悩む女性たち――。不妊に悩む人たちの支援を行うNPO法人「Fine」理事長の松本亜樹子(まつもと・あきこ)さんに、その実情を聞いた。

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42%がキャリアの変更を余儀なくされる

――仕事と治療の両立がネックになって、仕事を辞めてしまう人も多いと聞きます。

松本亜樹子さん(以下、松本):昨年8月にFineで発表した「仕事の治療の両立についてのアンケート」では、2265人のうち、92%の人が「仕事と治療の両立は困難」と感じているとの結果が出ていて、そのうちの42%が、実際に仕事を辞めたり、雇用形態を変えています。フルタイムの仕事をから、時間の融通がききやすいパートタイムに働き方をチェンジする人も。ただ、年代的に責任あるポジションについているケースも多いですから、.頑張って築いてきたキャリアをあきらめなくてはいけないとなると、非常につらい選択になります。

「卵子の状態」に振り回される日々

――「不妊治療は頻繁に通院する必要がある」とは聞くものの、調整しながら両立するのは難しいのですか?

松本:不妊治療というのは、非常にイレギュラーです。体の状態次第で治療の予定がどんどん変わっていくので通院日が定まりにくいんですね。例えば、体外受精では、子宮内の卵巣から卵子を取り出す「採卵」を行いますが、卵子がどれだけ育つかによって採卵日が決まります。卵子の状態を見ながら、ちょっとずつ注射をして育てていくのですが、ある日突然大きくなって、「明日採卵するから病院に来てください」ということがしょっちゅうある。そうなると、急きょ会社を休まざるをえないし、夫にも病院に来てもらう必要があります。まじめな人ほど、「職場に迷惑をかけている」と罪悪感を抱えたり、仕事を頑張りたいと思っても躊躇してしまったりするケースが多いんです。

サポート制度がある職場はわずか5.9%

――経験者でないと、そうした事情はなかなかわからないため、理解が得られにくいのが実情でしょうね。不妊治療のための休暇を認める企業も出てきていますが、まだまだごく一部です。

松本:Fineのアンケートでは、「職場に不妊治療をサポートする制度がある」と答えたのは、わずか 5.9%でした。ただ、制度があっても、職場に打ち明けることに抵抗がある女性は少なくありません。「6組1組が不妊治療を受けている」時代なのに、不妊治療はまだマイノリティーと捉えられ、偏見を持つ人もいます。私のまわりでも、上司に話したら閑職に異動させられたり、「これ以上長引くなら迷惑だから仕事を辞めてほしい」と言われたりした人もいます。

職場に伝えて根回しする手も

松本:とはいえ、ある程度まわりの人や上司にはわかっておいてもらえると、急な休みにもフォローしてもらいやすくなります。職場の風土にもよりますが、黙っていることで不具合が生じるなら、伝えてしまうのもひとつの手です。

――理解のある上司や周りの人を味方にして、根回ししておくことも大事ですね。

松本:私たちも、不妊治療中の方が直面しているこうした現実を国に知ってもらうように働きかけています。「不妊治療」とあえて言わなくても休みを取得できる仕組みが整えば、辞めずに済む社会になる。制度を整えると同時に、風土づくりも進めないといけません。不妊治療に関する理解を深めるような社員教育するなど、工夫が必要です。特に管理職の人たちに向けた周知は不可欠です。少子化、女性活躍推進が謳われる今、最重要・最優先課題のひとつと言えるでしょう。

不妊治療にすべてをかけない

――「仕事を辞めて不妊治療に専念する」という選択はどうでしょうか?

松本:もちろん状況によっては、そのほうがよい場合もあります。ただ、生活が「不妊治療一色」になることは、あまりおすすめしません。それしか見えなくなって気持ちが追い込まれ、苦しむ人をたくさん見ていますから。さらに、人間関係が狭くなることで、居場所をなくしてしまう可能性もある。子育てしている人たちとは一緒にいづらいし、働いている人たちとも話が合わない。家の中以外に居場所がなくなり、孤独になってしまいがちなんです。

「不妊治療の先の人生」のことも考えておく必要があります。もしも子どもができなかった時に、「キャリアもお金も時間もすべて失ってしまう」という状況になってしまうのは、あまりにもつらいことです。「どちらかを選ばなくてはいけない」と考えすぎず、まわりのサポートを求めながら、自分のやりがいや居場所はできるだけキープしておくことをおすすめします。

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