話題の「認定こども園」で840人があぶれる? 大阪・八尾市の幼保一体化の問題点

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話題の「認定こども園」で840人があぶれる? 大阪・八尾市の幼保一体化の問題点

大阪府八尾市は、公立幼稚園と公立保育所を廃止して、認定子ども園に移行する計画を推進している。しかし、保護者から強い反発が起き、デモや署名活動にまで発展した。認定こども園とは、幼稚園と保育所の両方の機能を備える施設であり、待機児童解消に対する一定の効果も認められるものだ。八尾市では、今、何が問題となっているのだろうか。

市と保護者で食い違う意見

八尾市の認定こども園整備計画は、2019年に公立の幼稚園19園と公立保育所7園を廃止して、5つの認定こども園に再編するというものだ。少子化の影響で公立幼稚園の在園児数は減少が著しく、1学年が10人以下の園もある。園児数が極端に減った公立幼稚園は、集団教育を行うのに望ましい環境ではないと判断され、保育所と合わせて認定こども園に統合されることになった。

保育所の場合、保護者が働いていなければ子どもを預けられないが、認定こども園になれば、3歳以上の子どもは保護者の就労状況に関係なく預けられる。また、保護者が離職したとき、保育所では退所を要求されるケースがあるが、認定こども園ではその心配はなく、子どもが置かれる環境も安定する。

これだけ聞くと、認定こども園化は保護者にも子どもにもメリットがあるように思えるが、八尾市の計画に疑問を持つ保護者の団体「八尾市幼保一体化を考える会」はこう語る。

「たしかに保護者の就労状況に左右されない点は(認定こども園の)メリットのひとつだと思います。しかし、その恩恵を受けられる人は何人いるのでしょうか。八尾市に確認したところ、『把握していない』との回答でしたが、2013年頃に同様の質問をしたところ、市からは『年間8人』との回答が返ってきました。

現在、八尾市で保育を受けている児童数は約5,000人です。兄弟で同時在園していることを考え、世帯数を仮に児童数の8割としても4,000世帯となり、そのうちの8人(世帯)となればわずか0.2%です。しかも恩恵を受けられるのは3歳児以上だけで、0~2歳児では恩恵は受けられません。

こんな微々たるメリットのために、公立就学前施設の全部を再編して混乱を招くのは、デメリットの方が大きいと思います。さらに、子ども・子育て支援新制度では、市町村が認めれば保育所であっても就労状況の変化にともなって即退所させない方法(特例給付)もとれるので、認定こども園でなくても十分対応できます」

問われる保育の質

「3歳以上であれば、無条件に入れる」「保護者が離職しても退所しなくていい」という意味で、今回の八尾市の幼保一体化は、保育所に子どもを預ける保護者にとってメリットが大きいように思えるが、反対派である「八尾市幼保一体化を考える会」メンバーには、保育所の保護者も少なくない。実際、同会のメンバーの割合は、幼保2:8だという。

「(幼保一体化は)保育所の児童とってデメリットの方が多いと思います。保育所型は在園時間が長く、幼稚園型は短いため、在園時間に差が生まれます。そのため、カリキュラムが幼稚園型の子どもがいる時間に集中してしまい、平日の午後や長期休暇の期間が手薄になってしまいます。こうしたカリキュラムのアンバランスは、子どもにとって明らかなデメリットです。

さらに、大規模化すると、子ども一人ひとりに対する丁寧な保育が難しくなるという問題もあります。人数が多いとクラス単位での行動が中心になり、異年齢での関わりが減ることも予想されます。保育施設の適正規模は100人以下、多くとも150人までと指摘する研究者もいますし、現に就学前施設の大半は100名程度の規模です」

「現在26ある幼保施設を5つの認定こども園に集約する」という話だけでもやや強引な印象を受けるが、新設される認定こども園の定員は1園あたり約250人と、「適正規模」をはるかに超えている。市は集団教育の必要性を訴えるが、保護者は「大規模すぎる」と懸念している。

問題はこれだけではないという。1番の問題は、認定こども園化にともない、公立の幼保合わせて841人の定員が削減されることだ。認定こども園に入れなかった子どもは私立の幼稚園に移るしかない。八尾市の制度では、公私の保育料に差はないが、同会の試算では、諸経費を合わせると、私立幼稚園では公立よりも2年で30万円増、3年で50万円増となる。これは家計にとって大きな負担だ。保護者からは「家計を考えると、本当は公立に行きたい。でも、公立施設の定員が減れば、望んでいなくても高い私立に入れざるをえない」と悲痛な声も出ている。

さらに言えば、歩いて通える距離にあった幼稚園・保育所がなくなり、全体の施設数が26から5に減れば、通園時間が今の数倍になるケースも増えるだろう。保育施設を選ぶ際の1番の判断基準として「自宅に近い」「職場に近い」が挙げられる。特に、毎日バタバタと通園と通勤をこなさなくてはならない保育所の保護者にとって、自宅や職場からアクセスしやすいかどうかは重要だ。今回の幼保一体化では、「遠すぎる」という理由で通園が難しくなることも考えられる。

社会に蔓延する保育への不安

問題はまだある。認定こども園の施設建設予定地のひとつが、自衛隊の駐屯地に近いことだ。騒音がひどく、耐えられるものではないと聞いた。近隣住民の話では、窓を開けるとテレビの音も聞こえないほどだという。2010年3月には駐屯地内でヘリコプターが試運転中に墜落、4人が重軽傷を負うという事故もあった。

こうした環境にショックを受けている保護者もいて、「耳が痛くなるほど騒音がひどいのに、子どもが生活する場所として、なぜここを選んだのか疑問でしかない」「八尾市は子どものことを何もわかってないし、考えようともしてない」と怒りをあらわにしている。

市はこれまでにも説明会を開催するなどしてきたが、市民や保護者は納得していない。「八尾市幼保一体化を考える会」は、市民や保護者の合意なしで認定こども園整備計画を推進しようとしている市に対し、「公立幼稚園・保育所をなくさないでください」という市長宛の署名44461筆、「幼保一体化計画の事業執行を強行しないことを求める」請願署名10623筆を提出した。

今回の八尾市の件は一地方の問題にすぎないのかもしれない。しかし、国会を揺るがした「保育園落ちた日本死ね!!!」のブログに賛同する人が後を絶たないように、現在の日本で子どもの預け先を心配したことが1度もないという親は、まずいないだろう。保育が置かれた状況はそれだけ深刻であり、大きな不安要素となって社会に蔓延している。親たちは「どこへ預けたらいいのだろう」「預け先が見つからなければクビだろうか」と不安に苛まれながら子どもを育てていかなくてはいけない。親もつらいが、その親の不安を敏感に感じ取る子どももまたつらい。保育は一体誰のためにあるのか、保育を届ける側がそれを真剣に考えないことには、この問題は解決できないだろう。

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