女社長の乳がん日記page.10

「どんな悪天候やトリッキーな道でも…」女社長が「乳がん日記」を発表して気づいたこと

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「女社長の乳がん日記」
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女社長、ホルモン治療が始まる

2016年12月24日(土)

今日は1か月ぶりに病院へやってきた。今日からホルモン治療が開始されることになっているため、外科外来へと向かう。いつもより待たされずに診察室に招き入れられ、いつも通りぱっぱと上半身裸になる。そして、触診からの傷のチェックを受け、「では、注射をします」と言われてお腹にブスブスっと何かを打たれた。聞けばこの注射を1か月に一回、その後3か月に一回の頻度で打ち、血中女性ホルモン(エストロゲン)を低くしていくらしい。それ以外に、毎日朝晩にノルバデックスという錠剤をのみ続けるそうだ。

太る、のぼせる、汗が止まらない、めまい……などなど、更年期で苦しんでいる人やホルモン治療経験者達の話を聞いて一時はビビったものだが、治療があまりにもあっさりと終わったため、「こんなものか」と肩透かしを食らう。

その上、「更年期の症状があまりにもつらかったら、この治療やめてもいいですから」と、先生もさらっと言ってくれていることだし、どうせ自然にしていてもあと5年やそこらで私の生理はなくなる予定だ。病室を後にした時には「取り合えず閉経を味わってみるか!」「生理がないって、むしろラッキー?」という気分に変わっていた。

お次は形成外科へ行って再び上半身裸に。この3か月というもの、検査や治療や手術や回診の度にセミヌードになってきたこの私。着脱はもはや「脱ぎ芸」と言っていい速さだ。形成外科では毎回おっぱいの写真を撮られるのだが今回もグラビア並みに色々な角度からシャッターを切られた。長い貧乳人生でこんなにもおっぱいにレンズが向けられることになろうとは。人生は本当に、その先に何が待ち受けているか解らないものだと思う。

そして、さっきよりも明らかに太い注射をぶすっと右乳房に刺された。右乳房は半年後シリコンを入れる予定で、それまでに皮膚を伸ばさなければならない。この注射は、現在ギザパイに内蔵されているエキスパンダーへ水を注入し、おっぱいを膨らませるために行われている。

水を注入され再び岩のように固くなったギザパイだが、太い注射針が刺さっているというのに表皮も中もまったく痛くない。表面の皮膚の感覚が戻るのもしばらく先だから、らしいのだが、これから半年間でこの注射も徐々に痛くなっていくのだとか。いいような悪いような感じである。

その後、傷口をチェックされ、ブレスバンドはもうしなくても良いという許可は出たが、保護テープは貼り続けるようにと指導を受ける。

手術の時も思ったが、その後の治療も、これは私の主観であり、私のケースだけかもしれないが実にあっけないモノばかりだった。ま、治療の副作用などはこれからなので大きい口は叩けないが、この調子なら諸々乗り越えてゆけそうだ。なかなかに幸先良し!

女社長、人生初のスポーツジムへ

1月20日(金)

ホルモン治療から1か月近くが経った。今のところ目立った変化は無いが、体重がしれーっと2キロ増。ホルモン治療が原因かどうかはいまだ謎だが、私は20年以上、体形は大いに変わったが体重は変わらなかったので多分ホルモン治療のせいなのでは? と当たりを付けている。やっぱりそう来やがったか!

ウォーキングは続けていてさらに歩行距離を延ばしたりしているが、もっと代謝を上げなければならないと私の体重計は無情な数字を示してくる。何せ、この乳がんプロジェクトは、「絶対に太ってはならない!」が命題なのだ。そこで次の一手とばかりに私は、昨日まで人生で一番縁遠い場所だと思っていた「近所のスポーツジム」に入会してみたのだった。ウォーキングで自信をつけたのか、すっかり気が大きくなっているようだ。

人生初のスポーツジムは見るものすべてがアメージング。特に私が行く時間はお年寄りが多く、60代、70代の人達がそこで汗を流し、体を鍛えている。そんな光景を初めて目撃し私の心はざわついた。中には80代? と思しき女性達もいて、レオタードに身を包み踊り、マシンで筋トレをしている。動かしたら痛いところも多々あるだろうにこの健康意識の高さ! 私は自分がいかに体調管理を疎かにしてきたかを突き付けられ、頑張る諸先輩方を見て膝から崩れ落ちる程ショックを受けた。

そこで、女性のウエストサイズの上腕二頭筋を持つインストラクターにイチからトレーニング方法を教わり、そのメニューを週1でこなすことを自分に誓ったのだった。

1月22日(日)

本日はキャリ婚正式版リリースの日。受付を開始してから申し込みが殺到し、男性登録希望者からの問い合わせも止まらず、事務局がパンクしそうだと執事は嬉しそうな悲鳴を上げていた。

「私も入会しました!」と、サバトの生徒や友人女性達からメッセージをもらう。「働く女性達が安心して婚活できる場を作りたい」その一心で、アナログにも男性面接を繰り返し作ったサイトである。彼女たちがここで生涯のパートナーを見つけられるように、これからも仲間たちと頑張ろう! と、ギザパイを熱くした1日となる。

そして、このキャリ婚正式版リリースを無事に出すことができ、結果大反響をもらえたので、私個人のスタートダッシュの責任は果たせたのではないかと思うに至る。

3か月間世間に乳がんを隠し続けてきたけれど、これでやっと私の「乳がんプロジェクト」を公開しても大丈夫なのでは? と仕事仲間に相談したら皆快諾してくれたので発表する段取りをバタバタとつける。

女社長、乳がん日記を公開する

1月27日(金)

今日はずっとしたためてきたこの「乳がん日記」をアップする日だった。

事前に、Duniakita担当の堀池さんから11:30にアップ予定であると聞いていた私は、アップ5分前になって今更、公開することでショックを与えてしまうであろう友人達やお世話になった諸先輩方への不義理を思う。キャリ婚のベータ版と正式版のローンチがあったので、社員とビジネスパートナー以外に一切話していなかったわけで、突然ブログで知ることとなった方々には衝撃や疎外感などを与えてしまうかもしれない。

ただ、「がん」という言葉は、思っていた以上に人をビビらせる力があり、メールで事前にお知らせしたとしても「安心してもらえる定型文」が私にはどうしても思いつかなかったのだ。今、生きることにも、治療にも、仕事にも、家庭にも、やる気満々な私の実情をリアルに誤解なくお伝えするには、やはりこの日記を公開するのが一番良い方法だろうと思い直し、最後は晴れやかな気持ちでアップを待った。

そして、SNSにアップされてから「女社長の乳がん日記vol.1」は、瞬く間にシェアされ、多くの人に読まれることとなった。ネット上の反応だけ見ると私はまるで「時の人」のようだ。ま、「乳がんで」なのだが。

コメントやシェアやメッセージを告げる携帯のお知らせ音が鳴り続けるので、今日はもう原稿も書かないでSNS対応にしようと決めた。3か月前から取り組んでいる私と、今初めて知った友人知人たちの温度差は当然激しく、言葉を慎重に選びながら送ってくれた多くのメッセージの束達を無視することはできない。

いただいたコメントやメッセージを読むにつれ、さっき、「安心してもらえる定型文が思いつかない」と書いたが、それはただの私の怠慢だったのではないか? と思い始める。読みながらいつの間にか癒されている自分がいて、「言葉の威力」というものを改めて思い知ったからだ。

そして、人を励ましたり、奮い立たせたり、安心させたりする言葉というのは何て語彙が豊富で、何て優しく相手へ届くのであろうか。そのおびただしい数の優しい言葉達は、今の私だけじゃなく、まだ不安だった3か月前の私や、検査前や手術前の私など、過去に遡って私の心を慰撫してくれるのだった。

また、「実は私も〇〇がんです。」という告白にも似たメッセージも今日だけで数十件いただいた。私の周囲にこんなにも癌患者がいたなんてまったく知らなかったのだが、皆、昨日までの私と同じように、仕事や家族への配慮で周囲に隠して闘病しているのだ。その孤独感は計り知れず、この「乳がん日記」を発表したことでラインがつながり、その一部でもシェアし合えたことは私にとっても大きな意味を持つ。

この日記を発表することは何回か迷ったが、今日を終える今は発表して良かったと心から思える。家族や近しい友人、ビジネスパートナー以外にも、私が歩いてきた人生の中でご縁のあった多くの人達がエールを送ってくれて、ただただ素直に嬉しかったからだ。

がん患者は術後も3年、5年、10年生存率や再発防止を意識して暮らしていかなければならないが、これだけ沿道で応援してくれる人がいるのならば、どんな悪天候やトリッキーなコースでも、そのマラソンを完走できる気がしてくるから不思議だ。

そして、やはり思うのだ。

治療を含めできる限りのことをした上でだが、私は1ミリも自分が早死にする気がしない。その「無根拠なエネルギー」や「生への強い執着」は私が自然に生み出しているものではきっとない。最初は近親者だけだったが、今日は多くの人達にも「頑張れ!」「生きろ!」と言っていただいて、そんな声援達にもきっと影響され、養分をもらい、私の「生」は今、爛々(らんらん)と花を咲かせているのだろうと思う。

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女社長の乳がん日記

「がん宣告」を受けた女社長・川崎貴子(44)が、「乳がんプロジェクト」と自ら命名して己を奮い立たせ、がん宣告から手術・治療までの日々をリアルタイムにつづっていた日記を初公開します。

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