幸福学・前野隆司先生インタビュー 第3回

限界のちょっと手前が充実ライン 幸福学の研究者から働く女性へ“引き算”の提案

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限界のちょっと手前が充実ライン 幸福学の研究者から働く女性へ“引き算”の提案

女性は、女性も、女性こそ……。社会が当てるスポットライトを受けて、キラキラと輝いて見える女性を見ていると、「あーもっと頑張らなきゃなぁ」と思ってしまいませんか?

でも実際のところ、働く女性たちからは、「プライベートと仕事、どっちも頑張るなんてできるかっ!」と憤る声もよく聞きます。両立ってそもそも誰のため? 両立することで本当に私たちは幸せになるの? そんなギモンを、「幸福学」の研究者である、慶應義塾大学大学院教授の前野隆司先生にぶつけてみました。

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【第1回】残業がなくなれば毎日充実するの?
【第2回】身近な人にキツく当たってしまう貴女へのメントレ法

「満杯」にしない工夫を考える

——前回、前々回と、「働く女性がごきげんでいるための方法」をお伺いしました。今回は、幸せについて考える領域をプライベートにも広げてみたいと思います。働く女性は、仕事も頑張れ、家庭も大事にしろ、女磨きもしろ……という社会からの無言の要求に疲れを感じてきています。両立することによって本当に幸せになるの?というのを、そろそろ考え直すべきだと思うのですが。

前野隆司さん(以下、前野):この前、プロ志向女性向けに仕事紹介サービスを行うWarisと協同でアンケートをとったところ、フリーランスで短めに働いている人たちの幸せ度がすごく高いことがわかりました。仕事時間をグッと短くして、子育てもして、趣味も楽しんでいる人たちの幸せ度が圧倒的に高かった。両立といっても、全部を完璧にこなそうとせずに、妥当な量まで嵩(かさ)を減らす。その生き方はすごく羨ましい。僕もそうしたいと思いました。

——キャパオーバーになるまで頑張らなくてもいい?

前野:個人のキャパシティーをコップ1杯分の水に置き換えると、水が満杯を超えた瞬間に、キツくてたまらなくなるように人間はできているんです。その代わり、水位が満杯より少し下だと、ものすごく充実していて楽しいと感じる。上司に相談して仕事量をちょっと減らすとか、家事を分担するとか、経済的に余裕があれば家政婦さんを雇って家事の一部をお任せするとか、やるべきことを減らす方法はいろいろあると思うんですよね。ただ「無理!」と言っているだけじゃなくて、知恵を出さないと。

「引き算」しても意外に困らない

——先生の著書には「引き算のワークショップ」のことが書いてありましたね。靴や化粧や財布などを一定期間「引き算」してみたところ、案外平気だったという気づきがあったとか。

前野:日常的に使っているものを生活から引くワークショップですね。たとえばスマホを手放してみると、「あれ? 意外にスマホなしで暮らせました」となるんです。多くの人が、「絶対にこれがないとやっていけない」と言っていたものを、案外簡単に手放すことができるんですよ。僕は鞄をパンパンにしてしまうタイプですけど、本当は全てなくても生きていける。自分にとって必要なものって、けっこう思い込みなんです。

——仕事を減らすのが苦手な人は、そうやって物理的に何かを引いてみるのもいいかもしれませんね。

前野:そうですね。実は幸せ度が高いと、労働生産性が高まるというデータがあるんですよ。コップの水をちょっと減らすことで、心が落ち着いて、仕事の創造性が高くなる。悩んでいる時間がなくササッとできるから、仕事のパフォーマンスも上がる。そのおかげでまた自由な時間ができて、遊んですっきり満足して、じゃあ次の仕事に取りかかろうという気持ちになるんです。少しスキマを作っておくと、さらにスキマができてどんどん幸せになっていくという好循環が得られます。

反対に、キャパオーバーだと寝不足になりますよね。寝不足だと仕事が遅れる。そのせいで遊びもキャンセルして、お詫びのメールにも時間がかかる……。そんなふうに、雪だるま式にどんどん悪影響が広がっていくじゃないですか。そうなる前に「手いっぱいです」と上司に相談すべきだし、家族内の仕事も分担すべきです。皆で話し合ってどうすべきか考える。そこはクリエイティビティーが必要なわけです。

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「水曜日はオシャレしないデー」にしてみる

——先生のおっしゃる「クリエイティビティー」とは?

前野:多くの問題は、クリエイティブに考えることで答えが出ると思うんですよ。よく、「オシャレをするか仕事をするかどっちを取るの!?」というふうになりがちじゃないですか。でもだいたいの問題には、創造的第3の解決法がある。真剣に考えてみたら、ばかばかしいものも含めて、10個くらい新しい解決方法が出ると思います。

たとえば「水曜はオシャレしないデー」と決めるのはどうでしょう。毎週水曜日はジーパンとTシャツで会社に行くというのを決めることで、「オシャレを考える時間」のぶん、スキマができる。そういうスキマのつくり方は、実はいくらでもあるんですよね。

——「オシャレしないデー」いいですね。今日はおしゃれについて考えないぞ、と決めることで、精神的にもラクになる気がします。私たちは、あれもこれも完璧にやらないといけないという固定観念にとらわれすぎているのかもしれません。仕事と恋愛がどちらも充実していないとダメとか。たとえ仕事をバリバリこなしていても、恋愛していないと敗北感みたいなものを感じがちです。

前野:それは、フォーカシング・イリュージョン(間違ったところに焦点を当ててしまうこと)ですよね。別に恋愛していない期間があってもいいし、仕事をサボってもいいし、休職してもいい。むしろ思い切ってザクッと減らした方が、スキマができて、充実すると思います。仕事を1年間バリバリこなして、その後は1年休んで恋愛に専念するというのもいいんじゃないでしょうか。恋愛に限ったことではなく、スキマができると、新しいことにも挑戦しやすくなりますよ。

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新しい服を着るように、新しいことに挑戦する

——女性のなかには「経験したことのない仕事はやりたくない」とか、機会を与えられても「私なんて」と尻込みしてしまう人も多いですが、新しいことにどんどん挑戦する人の方が幸せなんでしょうか?

前野:そうですね。新しいことをやりたくないというのは、意識してか無意識か分からないですけど、自信がないことの裏返しですよね。要するに、自分はこれをやると苦痛であると直感的に思っているということ。僕の本『幸せのメカニズム』でも解説していますが、幸せを構成する4つの因子の1つに、「新しいことに挑戦すること」があります。だから本当は、新しいことが目の前にきたら、「やったー、また違う仕事だ!」と思える方がいいんですよ。

——どうすれば自信を持って挑戦できるようになりますか?

前野:新しいことに挑戦するのも、苦しみながらだとやっぱり不幸なんですよね。まずは小さいことからでいいので、新しいことへの挑戦に慣れておくと、大きく環境が変わるようなときも「よし、やってみよう」というふうに考えられるんじゃないかと思います。

女性の場合は、新しい服を着るとか、新しい料理を作るとか、普段から小さなチャレンジをするシーンが多いじゃないですか。それと同じことと考えればいいと思いますよ。

——ああ! そういう考え方でいいんですね!

前野:新しい服を着るときの“華やかな楽しみ”みたいなものを感じたことがある女性は多いはずです。新しい服を着るように、新しい仕事にもトライしてみてください。

(取材・文:東谷好依、写真:青木勇太)

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