すんなり親になれなかった私…「考えるチャンス」を与えてくれたもの

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すんなり親になれなかった私…「考えるチャンス」を与えてくれたもの

「産むも人生、産まないも人生」
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34歳で「子供がほしい病」に陥り、40歳で不妊治療をやめ、現在45歳となったコラムニストでイラストレーターの吉田潮(よしだ・うしお)さん。今年2月に掲載して大きな反響のあったコラムをきっかけに新連載がスタート。「産まない人生」を選択することにした吉田さんが、「オンナの欲望」に振り回されっぱなしだったという30代を振り返り、今思うこととは?

結婚にしろ、出産にしろ、なりゆきで、すんなりとやってしまった人にはない「考えるチャンス」。考えるのは、いつも求めてなかなか得られない人のほうですが……。

ブルース・リーの逆バージョン

子供をもつことについて、こんなに自分の脳みそをほじくり返したり、日記を読み返したのは初めてだ。ブルース・リーの映画では「考えるな、感じろ」だったけど、その逆バージョンを今味わっている。「感じるな、考えろ」と。

はたと気づいたのだが、私は「産まないこと」を考える機会を与えてもらったのかもしれない。

というのも、私は特に悩むことなく、意外とすんなり、24歳のときに結婚した。結婚願望があったわけでも、結婚に焦ったわけでもない。お互いの経済的な安定につながると思っただけで、すんなり結婚した。つまり、「結婚する・しない」というお題を考えることがなかったわけだ。

離婚した後も、紆余曲折あって、すんなりではなかったけれど、再婚した。なんというか、「熱望したわけでもなく、ごく自然に、なりゆきで」結婚している。

正直、結婚できないと嘆く人の気持ちがわからない。「好きになった相手と全力で関係を深めていけばいいだけじゃないの?」と思ってしまうし、結婚なんてただの契約、そう難しく考えることじゃないと思ってしまうのだ。

でも、結婚したくてもできない人、ご縁がない人にとっては、「結婚する・しない」を深く考えたり、選択肢を吟味したりするだろう。本当に自分は結婚したいのか、本音は独身のままでいたいのではないか、と自分の人生の着地点を考えたりするのだと思う。

これ、子供をもつことと同じじゃないか。

「熱望したわけでもなく、ごく自然に、なりゆきで」すんなりと出産した人は、子供をもつ・もたないことについて考えたりしないだろう。考えている暇もなく、子育てに突入する。そんなことより乳やらなきゃ、ギャン泣きを止めなきゃ、と忙しいのだから。妊娠・出産なんて、そう難しく考えることじゃないと思っているかもしれない。

でも、私のように子供がなかなかできない人は、「子供を産む・産まない」を深く考える。考えすぎてよくない方向へも行ってしまう。

つまり、結婚していない人も子供を産んでいない人も、そうでない人に比べたら、人生の着地点を考えるチャンスを与えられているとも言えるのではなかろうか。その代わり、ほいほい何度も結婚する人やポコポコ子供を産む人は、結婚や子育ての苦しみと喜びを与えられている。さらに次なる試練も待ち受けているわけで。

ブルース・リーの教えのように、考えずに感じるまま生きられたら、ラクだったかもしれないなあ。でも、「子供を産む・産まない」という命題に取り組んだだけ、自分を掘り下げることもできたし、決してマイナスではなかったと思いたい。つうか、思ってる。考えすぎて知恵熱出そうだけれど。

因果応報なんてないから

今の世の中、責任の所在をハッキリさせる風潮が強い。誰が悪いのか、とことんまで突き詰める、追いかける、叩きまくる。不妊治療を頑張っている女性にはキツイ。そもそも不妊の原因は男女イーブン、女性だけが問題ではないのだが、どうしても責任を背負わされる傾向がある。いや、自ら背負い込む、かな。

本当はそうじゃないとわかっていながらも、子供を産めないのは自分のせいだ、と思い込んでしまうときもある。私もそうだった。ちょっと視野狭窄だったころの私の思いを綴っておきたい。

受精卵が育たなければ、こういっちゃなんだけど、精子のせいにもできる。受精卵ができた段階で、あとは腹の中で育む性である自分の責任だと思い込んでしまっていた。妊娠したらもう私の責任だと。

不育症というのもあると聞いた。妊娠はするものの、受精卵がなかなか育たないという状態だ。最初の体外受精がうまくいかなかったとき、どこかで自分を責め始めるスイッチが入ったのかもしれない。

もちろん、女だけの責任ではない。これは単純な生体反応の問題であり、運である。責任を感じて自分を責める必要はない。ないはずなのに、スイッチが入る。私は、スイッチが入ったけれど、その後、いろいろと考える機会をもらって、すっとOFFにできた。

不妊治療を頑張って続けている人、あきらめた人、スイッチをOFFにできたかなぁ。ただでさえ心が大変なのだから、せめてこのスイッチを入れないよう、省エネでいってほしいと思っている。

ついでに言えば、日本人は「因果応報」が大好きだ。

「あのとき私が○○していれば」

「あのとき私が××していなければ……」

と過去の振る舞いや生き様に原因を求めて、自分を責める・恥じる・背負い込む。

因果応報ってね、もともとは仏教を広めるための惹句、つまり宣伝文句なんだって。悪い行いをすると地獄に落ちるよ、だから念仏を唱えて、仏の御心にお許しいただきましょう、ってヤツだ。すべての行動が未来につながっていると、脅すことで仏教を広めたかったワケね。仏教は素晴らしい宗教だけれど、因果応報で脅迫して信心を煽るというのはいただけない。それを知って、妙にスッキリした記憶がある。

たとえば病気になった人の中には、自分の行いが悪かったからだ、と自責の念に駆られる人もいる。ハッキリ言って、関係ないから。乱れた生活で生活習慣病になるというのはある程度因果関係があるだろうけれど、それ以外は仏も神も医者もわからないから。過去を振り返っても病気は治らないし。前だけ向くようにしましょうよ。

エネルギー値が高い人・低い人

「今、30歳なんですけど、妊活したほうがいいのかなぁ」

「結婚して3年たつんだけど、不妊治療をやったほうがいい?」

もちろん、私たちメスが背負っている生物学的な限界を考えると、早く着手したほうがいいとは思う。でも、それを決めるのは本人であって、この質問にはちょっとした迷いも感じられる。周囲が、世間が、あるいは夫が主語で、自分が主語じゃない場合は、しなくてもいいんじゃない?と思っている。

さらには、妊娠と出産は莫大なエネルギーが必要だ。さらにその後の子育てを考えると、本当にエネルギー値が有り余っている人向けだと思われる。身体的なエネルギーももちろんだけれど、精神的なエネルギーに自信がないのなら、無理に頑張らなくてもいいのではないか。自分のエネルギー値に合った人生設計でよいのではないか。

私自身、エネルギー値は決して低くないほうだ。体力にはそれなりに自信があるし、瞬発力と集中力もそこそこあるほうだと思う。

ただし、致命的に持久力と忍耐力がない。ダメだと思ったらあきらめる。いらないと思ったらすぐ捨てる。無駄なエネルギーを使わずにすむし、他のことに使える。負の感情をため込まないこと。イヤだなあと思ったら全速力で逃げる。

常に上を目指している「意識高い系」の人は、すごいなあと思う。

嫁として家族を支え、妻としての矜持(きょうじ)を忘れず、母としても頑張り、仕事の上でも手を抜かず、地域活動に貢献もして…って、そんな人、この世にひとりもいないから。うん、断言するよ。ネット上で、テレビの画面で、そんなふうに見える人は、ハッキリ言って虚像だ。そうありたいという欲望を固めて作り出したファンタジーなのだ。

エネルギー値がそんなに高くない人は、無理しなくていいし、背伸びもしなくていい。それよりも「そこそこ楽しい」「そこそこ幸せ」の回数を増やしていくほうが健全かつ安全だと思う。世間の多数派に乗っからないと、人生損をする、と思っている人が減ってくるといいよね。人には人の乳酸菌、人には人のエネルギー値。足並みそろえる必要性なんてどこにもないのだから。

エネルギー値が低くても、ちょっと頑張ってみようかなと思っている女性には、小さくこぶしを握ってエールを送りたい。あくまで小さくさりげなく。そして、不妊治療を始めようと思っている女性には、「結果がどうであれ、知らなかった、あるいは封印していた自分を知ることもできるよ」と教えてあげたい。私がそうだったから。

【新刊情報】
吉田潮さんの連載コラム「産むも人生、産まないも人生が、8月25日にKKベストセラーズから書籍『産まないことは「逃げ」ですか?』として刊行されることになりました。アマゾンでの購入予約はから。

(吉田潮)

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産むも人生、産まないも人生

34歳で「子どもを産みたい病」に罹り、40歳で不妊治療をやめ、現在45歳となったコラムニストの吉田潮さんが、「産みたい」というオンナの欲望と折り合いをつけていく様子を綴る。

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