『政略結婚』高殿円さんインタビュー2回

“幸せのテンプレ”に振り回されないで…「これが女子の生きる道」なんてない

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“幸せのテンプレ”に振り回されないで…「これが女子の生きる道」なんてない

私たち女性をよくも悪くも悩ます「結婚」。

そんな「結婚」をテーマに、江戸末期、明治大正、昭和と不思議な縁でつながる3人の女性たちを描いた歴史エンターテインメントが高殿円さんによる小説『政略結婚』(角川書店)です。

「結婚」をテーマに小説を執筆した経緯や3人のヒロインを描くことで伝えたかったことなど、高殿さんに3回にわたって話を聞きました。

江戸時代、地方にもキャリア女子はいました

——前回は「黄金の国、キラキラしているイメージがある」ことから金沢を舞台にしたというお話でしたが、現地の取材などはされたのでしょうか。

高殿円(以下、高殿):「新聞で日刊連載をお願いします」と言われた時点で連載スタートがかなり間近に迫っていたんです。じゃ、とにかく行ってみようということで、新聞連載時には挿絵を、そして単行本化の際にカバーイラストを描いてくださった白浜鴎先生と一緒に金沢へ行きました。とにかく現場だ!という感じで、突撃取材。

歴史博物館や県立図書館等、いけるところは片っ端からあたったりもしたのですが、加賀藩のものがメインで(第一章の主人公、勇姫が嫁いだ先の)残念ながら支藩の史料はほとんど残っていなかったんです。加賀藩の資料を読み込んで当時の風俗を調べたりもしましたが、意外なところから資料が見つかったりもしました。

——意外なところというのは?

高殿:前田家の下屋敷が板橋にあったので、実は、灯台下暗しと言うか、東京の板橋区役所にあったりしたんですよ。ちょうど展覧会が開かれていたりもしたので、あわてて図録を取り寄せたり。時間もないから書きながら調べ、調べながら書くという感じで書いていました。おかげさまであの年の後半の記憶はあまりないです(笑)

——史料がほとんど残っていないのは女性だからというのもあるんでしょうか?

高殿:そうですね。残っていても戒名という場合がほとんどですよね。基本女性は「産む機械」という扱い。こんなに残っていないんだなと改めて思いました。

でも、いろいろ調べていくうちにわかってきたこともあって。「大奥」という呼称のは江戸城の奥御殿だけのものだけれど、大名たちの御国元にも城があるわけですから、当然「プチ大奥」があるわけです。

仕事のできる小姓女中がいたり、あるいは顔と家柄だけで選ばれた側室候補がいたり。作品に登場する小姓女中の蕗野は、今でいうキャリア女子ですが、当時でもキャリア女子は、今でいう管理職にまで上り詰めれば家督を継ぐ、つまり歴史に名前を残せたんですよね。

仕事も役割も生き方も、自由に選べるのが本当の平等

——「第一章 てんさいの君」のヒロインは加賀藩主前田斉広の三女・勇(いさ)です。生後半年から決まっていた許嫁・前田利之(としこれ)の次男・利極(としなか)の元に嫁ぎます。

幸せな結婚生活を送っていたものの、夫は早逝してしまう。そのあと、「お家」のために奮闘していく様子は決して運命に翻弄されるだけではない強さを感じました。

高殿:あの時代、女子に許された選択肢というのはとても少なかった。結婚相手すら自分では選べないし、お付き合いする相手も夫に合わせて決まります。格付けが常になされている時代では、自分がどのポジションにいるかというのをわきまえながら生きていたわけですよね。

そんな時代に余計なストレスなく過ごすためには「上手に受け入れること」が大切だったと思います。そういうしなやかさは、今の時代にも必要なんじゃないでしょうか。

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——張りあうだけじゃうまくいかない場面もありますよね。

高殿:今の時代は、女性の活躍が叫ばれていますが、男性がやってきたことを女性もやるのが「活躍」と捉えられている向きがあると感じています。でも、本当にそうでしょうか。女が男になることが必ずしも男女平等なわけではない。

実際、男性であっても、女性に多い仕事が向いている人はいるし、女性が仕事をするのに、いままで男性がやってきたやりかたを踏襲する必要はありません。性別に関係なく、仕事も役割も生き方も自由に選択できるのが本当の平等なんじゃないかって思います。

難しいことは、逆に、自由といっても自分ですべて決めることが幸福の基準なわけでもない、という点でしょうか。なんでもかんでも、現状すべてに抗うことがいいわけではないと思うんです。受け入れたっていい。

その「幸せ」って誰かが作ったものじゃない?

——確かに。女性がしんどいって思っちゃうのには他にも理由はあるんでしょうか?

高殿:女性向けファッション誌を見てもやたら「キラキラ女子」や「輝く女子」が取り上げられていますよね。そういうのを見て「これが女子の生きる道なんだ」って思っちゃう人もたくさんいると思うんです。

どんなに心がしっかりしていても、何度も何度も繰り返し浴びれば、誰かが作った幸せのテンプレートをいいものだと自然と思い込んでしまう。それが”呪い”の正体じゃないか。

世の中が「キラキラせねば」という呪いにかけられているとしたら、とてもしんどい。この作品を通して、そんな結婚観や幸福感はごくごく最近誰かによってつくられてきた呪いなんだから、その呪いを解いていきたいというのも今回の執筆の大きな動機でした。

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「レールから外れる=不幸」じゃない

——呪いというのは「こうあらねば」という思い込みや世間から押し付けられるプレッシャーってことですよね。そんな呪いをぶっ壊すという意味で印象的だったのが「第二章 プリンセス・クタニ」のヒロイン・万里子が意中の男性にプロポーズするシーンでした。

高殿:女性からプロポーズしてもいいわけですし、自分が稼いでいるのであれば、伴侶にサポーター役を選んでもいいわけですよね。万里子の意中の相手であるタカさんは、大学入試は失敗しましたが社交スキルは高い男性です。

タカさんのような、幸福なマッチングを受けられなかった男性は今現在もたくさんいると思っています。学歴はないけれど営業にすごく向いているだとか、そういう人は世の中にたくさんいるはずなのに、いまの社会では悲しいことに一つの大きな物差しではねられてしまうんですよ。もったいない。

「お受験」や、「就活」「婚活」のような言葉をたくさん浴びていると、「一つのレールから外れたら人生終わる」みたいなプレッシャーを日々感じます。だから、たとえレールから外れたとしても、それはイコール不幸ではないということを伝えたいと思いました。

次回は8月5日更新です。

(聞き手:Duniakita編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)

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