アダムとイブのもつれる遺伝子 第1回

男の浮気は“本能”と無関係であることが判明

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男の浮気は“本能”と無関係であることが判明

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恋愛、結婚、浮気、ケンカ、離婚……いつの時代も変わらない男女の「もつれ」を遺伝子学で解き明かしていく連載「アダムとイブのもつれる遺伝子」が今回から始まります。初回のテーマは「男の浮気」。しばしば耳にする「男の浮気は、種をできるだけたくさんばらまくため」という説は本当なのか? 生命情報学がご専門の国際医療福祉大学助教、筒井久美子(つつい・くみこ)先生に、遺伝子学の観点から答えていただきます。

“バラマキ”は下等生物の手段

結論から言ってしまえば、「男が浮気するのは、自分の種をばらまくため」という説は、単なるこじつけです。だいたい、「種をばらまきたい」が浮気の根拠だとしたら、避妊しないのが当たり前ですよね。それなのに、浮気相手が妊娠したら男はビビります。だいたい、そこからしておかしい(笑)

実は、魚類のような下等生物であれば、種をばらまくという機能が本能的に備わっているんです。一度に何千、何万と精子をばらまいて、最終的に1個体でも生き残ればいいという戦略で生存しているからです。この場合なら、「自分の種をばらまくために浮気する」という説は有効なんですよ。アンタが魚なら「バラマキ説」は正しい(笑)。でも、人間のような高度に進化した生物の場合、遺伝学的にもはやそんな原始的な機能は必要ないんです。

人間は長い長い時間をかけてバラマキ型の魚から進化して、きちんとつがいをつくって少ない数の子どもを確実に育て上げる方法を身につけてきました。だから、「種をばらまくために浮気する」という理屈は、進化の過程を逆行してしまっているんです。

高等動物は進化の過程で“生涯の伴侶”を獲得した

オスとメスが、生涯の伴侶を得てつがいを作るという行為自体が、とても高度なことなんです。生物はもともと単性生殖です。1つの個体が分裂して2つの個体になったり、1つの個体の中にオス・メス両方の機能を持ちながら子孫を残したりしていたわけです。つまり、他の個体と協力して子孫を残すという方法をとっていなかった。ひとりで気が向いた時に子孫を残していたと言いますか。

でも、遺伝子レベルで見れば、他の個体と交配した方が進化していきます。1つの個体から分裂を続けるだけでは、ずーっと同じ型の遺伝子が増えていくだけですが、他の遺伝子と交われば、どんどん新しい型が増えていきます。それだけ環境の変化にも強くなる。

進化の過程で家族や群れを形成していく

ちょうど1年前に中南米でタコの群れが発見され、私たち専門家の間ではちょっとした話題になりました。普通、タコは単独生活をしているんですが、中南米で発見されたタコは、驚いたことに40匹ほどの群れで生活していたんです。群れは複数のつがいなどで構成されていて、つがい同士の交尾活動を観察すると何日間もともに過ごして足を絡めあいながら、濃厚な時間を過ごすことがわかりました。これは、数百種類いる他のタコには見られない行動で、40数匹の集団で生活しながら、つがいでねっとり愛を育むという行為は明らかな進化です。

進化の過程をたどれば、もともと1匹で活動していた生物が家族をつくり、それがやがて群れになっていきます。人間も同じようなプロセスを経て、今のようにコミュニティ(社会)をつくるに至りました。

でも、「群れ」って飽きますよね? 群れをつくるのが当たり前になってくると、今度は「外に出てみたい」「冒険してみたい」という感情が生まれ、刺激を求める個体も出てきます。それが、いわゆる浮気行動としてあらわれてくるとも考えられるんです。

すでに解明されている“浮気遺伝子”の正体

この刺激を求める衝動を生み出しているのが、“冒険心の遺伝子”と呼ばれるDRD4という遺伝子。“浮気遺伝子”との異名も持つ、結構有名な遺伝子です。

世の中には刺激を非常に欲しがる人が存在するものです。命綱をつけずに綱渡りをする、真冬のエベレストに単独で挑む、小さなヨットでひとり太平洋を横断する。そういう“命知らず”の挑戦をやらずにはいられない人が、たいてい備えているのが、この遺伝子だと言われています。

DRD4を持つ人は、刺激を求める神経伝達物質ドーパミンを受け取る受容体が他の人より活発なんですね。すると、ドーパミンがちょっと分泌されただけでも、もっともっとと刺激を欲するようになるんです。

“エネルギッシュな男性”の共通点とは

しかし、DRD4があるからといって、必ずしも浮気につながるわけではありません。あくまで求めているのは「興奮」や「快楽」なので、それらにつながりさえすれば、その手段が異性である必要はありません。バンジージャンプでも、ロッククライミングでも、何でもいいのです。ですから、ここでもやっぱり「浮気=種のバラマキ」という説は成立しないわけです。DRD4が浮気を誘発する場合は、生物としての「本能」が発揮されているわけではなく、単に欲望の赴くままに行動しているにすぎないことになります。

なお、ドーパミンはみずから積極的に動こうとする時に分泌されるので「俺が俺が」と前に出たがる権力志向や自己顕示欲の強い人、例えば起業家や政治家といった人たちは、普通の人よりたくさんドーパミンが出ているような気がします。いわゆる「エネルギッシュな男性」には、どうやらDRD4の持ち主が多そうです。

「進化の成果」を大切にしよう

話をまとめれば、人間はわざわざ浮気しなくても、ちゃんと繁栄できるようになっているということです。そもそも、バラマキ型の生物の場合、オスはばらまくことが人生の目的だったりするので、わりと短命です。つまり下等生物のオスは自分を犠牲にして子孫を残すんです。でも、ありがたいことに、人間は進化の過程でそういう遺伝学的な機能を捨て、子孫を残した後も生き続けられるようになりました。

そう、人間のオスがわが子の成長を見られるのは、遺伝学的に見て、とても恵まれた“結果”なのです。だから、「浮気をするのは、本能なんだから仕方がない」なんて、魚時代の名残みたいな言い訳をしてないで、奥さんと子どもを大事にしろ、それが進化の過程で獲得した人間本来のありかたなんだぞ、と言いたいですね(笑)。

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アダムとイブのもつれる遺伝子

恋愛、結婚、浮気、ケンカ、離婚……生命情報学専門の国際医療福祉大学助教、筒井久美子(つつい・くみこ)先生に、様々な男女のもつれの原因を遺伝子学の観点から答えていただきます。

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